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六角の花   作者: フミ
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思い出せないが忘れた訳では無く

思い出せないまでにも此処に来た時の自分の様子が分かれば おおよその見当はつく

それにまずここは何処なのだろうか

かなり寒いようだ そしてこの両手の包帯

丁寧に巻かれているが切り傷ではなそうだおそらく凍傷だろう

雪山で遭難でもしたのだろうか?


しかし全身あちこち切り傷がある戦だったのか?だったら一人でいる筈はない


あれこれ考えてもらちが明かない

リッカに訊ねればよいのだ


それにしても寝巻きだというのに見事な染物だ

自分が袖を通している寝巻きの袖をしげしげと見詰めた

藍色の小紋で柄は朝顔だ

おそらく自分の着ていた物は汚れたか痛んだかして貸してもらっているのだろう

先程リッカは亡き父と言っていたがお父上の物だろうか?


もう一つ先程アキヨリが水を飲むのに使わせてもらった陶器

これも見事だ実用的な機能は確認済みだが青みがかかった白い釉薬が実に美しい


「どうにかして譲って貰えないだろうか?

叔父上に見せたらさぞ喜ぶだろう」


アキヨリが叔父ナリマサの顔を思い出した途端 両の目から涙が溢れ止まらなくなった


「なんだ!?どうしたことだゴミでも目に入ったか?」


自分の異変に自分自身驚いていると


「いかがなさいました⁉何処か痛むのですか?」


食事を持って来たリッカが心配そうにアキヨリの顔を覗きこんだ


「痛くも悲しくも無い俺自身わからんのだ

本当だ痛みなどで涙など流すものか」


女に涙を見られた気恥ずかしさに必死に言い訳をした


「分かりましたお腹が空いたのですね

お身体少し起こせますか?」


「ああ どこを動かせば痛いのかはだいぶ分かってきた

かたじけない」


リッカが気を使って腹が空いた事にしてくれたのだと思い

何とも無いのだと見栄を張る為 痛い素振りなど見せず上半身を起こして見せた


「良かった お侍様は鍛え方が違うのですね 本当に心配したのですよ

さあ召し上がれ」


粥だろうか リッカはさじにすくってアキヨリの口元に運んでくれた


自分で食べると言いたかったが あまりにも美味そうな匂いに逆らえず いうがまま口にしてしまった


まずかった


しかしまずいなど言ったらまた良薬は口に苦しなどと この粥がどれだけ体にいいか諭されるに違いない


「少し味付けを間違えてしまいましたが お身体に良いものが沢山入っております 我慢して召し上がって下さいませ」


ああもう飯の事などどうでも良い


「尋ねたい事があるまずここはいずこの地であろうか?

俺をここに来た時は意識はあったのか?

一緒にいたのはアクヤだけだったか?

どんな出で立ちであったか?

そもそもいつここに来たのだ?

ああいっぺんに聞き過ぎたすまない」


そうアキヨリが言い終わるか終らない内に


「ここはアキの国ホウライ山中でございます

アキヨリ様はすでに意識はございませんでした


一緒にいらっしゃったお方はタキ様と仰っておられました


お迎えの方々を呼びに行くと私にアキヨリ様を託し行かれました


こんな事を申し上げたら叱られるでしょうが水がこぼれる音のような可愛らしい声の方でしたね


アキヨリ様のお召しになられていたものは普段お侍様がお召しになる直垂姿でございました


二日前 五月十四日の夜更けでございますアキヨリ様のいらしたのは

本当に心配いたしました

家人総出で手当てさせて頂きましたのですよ

あっ!恩を売っているわけではございませんよ うふふ」


アキヨリはリッカの理路整然 立て板に水の受け答えに圧倒いや うっとりして思考が停止して状況の整理にかなりの時間を要したのであった


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