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六角の花   作者: フミ
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目覚め

「アキヨリ!おい!アキヨリ!いつまで眠っておる

兄上が呼んでおられる目を覚ませ!」


「兄者 手を引いて起き上がらせくれ 身体中痛くてかなわん

それにもう疲れた

倒しても倒しても殺しても殺してもキリが無い俺はもう嫌だ」


「そうだな 皆お前に頼りすぎた

起き上がらずともよい ただ目を覚ませ

でないと眠り続けることになるぞ

太刀でも脇差しでもお前の欲しがっていたものは全部くれてやるから目を覚ませ」


「人を殺す道具などもういらん

兄者側にいてくれ 何もいらんから側にいてくれ」


「すまんアキヨリ 愚兄はもう行かねばならなくなった

お前には辛く当たってばかりだった

戦の事はしばらく忘れ傷を癒せ

よいな兄の言付け守らねば堪忍せぬぞよいな…」


「兄者どこに行く!俺をおいて行くなら言付けなど守るものか!

兄者!兄者!」


「うう!何だというのだ嫌な夢だった…あぁ頭が痛い」


アキヨリが目を覚ますと…目を覚ますと言うより意識を取り戻すと言った方がより近いだろう

目の前に二つの歪な穴があり そこから何とも言えない匂いの強烈な風が吹いて来た

それを躱す為身をよじらせようとしたが

激しい痛みに襲われ仰向けのまま風と供に飛んできた飛沫から眼球を守る為 目をつぶるのが精一杯だった

その匂いはアキヨリの日常の一部となる良く知った匂いだ


「アクヤもう少し離れろ!臭くてかなわん!」


アクヤの鼻が視界から消えると周囲の様子が目に飛び込んできた


まず巨大な自然木を使った梁が目に入った

自由になる目だけを動かし見回すと質素だが美しい襖

そして障子を通して部屋に注がれる柔らかな明かり

そして土間に立ちこちらをじっと見つめるアクヤ


豪農の屋敷と思われた

しかしなぜここにいるのか

どうやってここに来たのか

ここに来る前どこにいたのか何一つ思い出せなかった


「おい!アクヤ 身体が動かん俺は怪我しているのか?

お前がここに連れて来てくれたのか?」


当たり前であるがアクヤは何も答えず そのまま眠ってしまった


「世話になったようだな すまないゆっくり休んでくれ」


眠るアクヤを見つめながらここにいる理由 身体が痛む理由 思い出してみたが頭が痛むだけで何も思い出せない


「大事な役目があった筈なんだが

なんたる事だ また兄上に顔向けが出来ん」


足音が聞こえる段々近づいて来て部屋の前で止まった

急ぐような小刻みな短い歩幅

命を常に狙われる立場 身体の自由にならない状況

一瞬身体を強張らせたアキヨリだが足音が女のものであろう事で緊張を解いた

しかし開く襖を注意深く見詰めた


「お目覚めでしたか!良かった

本当に良かった」


まず障子越しの日の光に艶めく長く美しい髪が目に入った

次に安堵をたたえた優しく微笑む目

アキヨリはその目から視線を動かせなくなってしまい顔全体を確認するまで少しの時間を要した

美しかった

冷たいくらい整った雪のように色の白い顔を見知った顔だと思い

名前を思い出そうとしたが やはり初対面なようだ


事の前後を思い出せないのとは関係無いように思えた 事実アクヤの顔と名前は覚えていたのだ


だがそんな事情より自分と馬一頭が世話になっているのだ


「シジマ アキヨリと申す

身体の自由がきかぬ故このまま失礼いたす

愛馬共々大変世話になっている様子 痛み入って御座る」


記憶がままならないのに素姓を明かすのは 躊躇われたが

命を預けたようなものだ そんな相手を偽るのは彼の主義に反した


「シラセ リッカと申します

亡き父に代わり ここを切り盛りしております

お身体が癒えるまで ごゆっくり留まって下さい」


女の目から涙がこぼれた

何故涙など流すのか疑問に思うより先にアキヨリは美しいと思った


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