雪と女
「皆許せ 必ず仇をとる 許せ
兄上申し訳ございません…」
アキヨリはまどろみの中にいた
命さえ危うい疲労を屈辱と自責の念が上まわり熟睡を許してくれなかった
以前として家臣達の寝息やいびき激しく吹き荒ぶ風の音はっきり聞こえている
だが閉じた目にはここではない別の風景が映っていた
女が一人立っている遠くを見つめじっと立っている
誰かを待っているのだろうか不安げな それでも何かを期待しているような表情でじっと立っている
「誰だろう」
表情は分かるのに誰かは分からない
どんな目なのか どんな鼻でどんな口なのか見えているのに分からないのだ ただ長い髪が風になびいていた
夢というのはおかしなものだ
どうしても誰なのか知りたくなって 覗き込むように女の顔に意識を集中すると 急に女から視点が遠退き女の姿は見えないくらい小さくなってしまった
そしてそこでも猛吹雪が吹き荒れ女は完全に見えなくなった
「前にもこんなことが…」
思い出そうとしたが出来なかった
無音 暗闇 深い眠りに落ちたのかもしれない いやそうでなかったのかもしれない
奥に進むにつれ狭くなるアキヨリ達が眠る洞窟で馬達はなんとか入れる所で寄り添い合うように眠っていた
アクヤは主を見習っているのか一番出口側で吹雪から仲間を守る盾となっていた
もともと北国で重い荷物を運ぶ体の大きな種類の馬であるアクヤは寒さには他の馬より数段強い
そしてその事を自分でも自覚しているようだった
この間欠泉に辿り着いてからアクヤにずっと語り掛ける声があった
「ここは危険だ早く離れなさい」
もちろん馬であるから言語ではない
遠く祖先から受け継ぐ命を繋ぐための五感とは異なる感が警戒音を発していたのだ
しかし猛烈な疲労とアキヨリから離れたくない思いが彼をこの地に留まらせた
「お馬さん!お馬さん!お願い力を貸して!」
今度は言語だったアクヤは悲痛な嘆願を耳にして目を覚ました




