翻弄
「人の目は前を見る為にあり
前方には活路がある!」
アキヨリ達は一点突破を狙い密集して隊列した
敵の伏兵はおよそ百五十突き破ることなど容易な数
しかも現れるのがいささか早すぎた
正面から当たるのではなく
少しやり過ごし横から当たられたら
縦長に隊列したシジマ勢はひとたまりも無かっただろう
「でぇりゃあぁぁぁぁ!」
最早仲間を鼓舞する訳でも無く指揮する訳でも無く
だだ雄叫びを上げアキヨリは踊るように斬り込んで行った
敵と当たる直前アクヤは足踏みするように速度を落とし
その直後また全力で駆け出すした
敵兵達は一瞬で加速したように錯覚し斬り込む期を完全に外され
刃を突き出す間も無くアクヤの蹄の下となった
「一時はどうなるかと思ったが この伏兵さえ片付ければなんとかなる 皆遅れるなよ」
後列の味方が敵の追撃を受けてはいないか振り返ると
アキヨリは亡き父の言葉を思い出した
「戦場で勝ったと思った時が負けた瞬間だ 助かったと思った時が三途を渡った時と思え」
後列はどこから現れたのか新たな一軍に急襲され打ち崩されつつあった
「一体どこから!」
先ほどから砲撃が止んでいたのはアキヨリ達が射程から外れたからでは無かった
南蛮の軍艦は港の桟橋に横付けし
積んで来たものを下ろしていたのだ
サナガの旗印を掲げた二百の兵であった
「やんぬるかな!
最初の伏兵は足止めであったか!」
アキヨリはここまで戦場で翻弄された事など無かった
まだ若い いやまだ幼いと言ってもいい彼の自尊心は崩れかけそうになり
やがて自責の念が襲って来た
「救出に向かわねば!
俺のせいだ
俺のせいで兵達が
あいつらには家族がいるんだ
そして俺の家族なんだ!」
己を犠牲として兵を助けるなど総大将としてあるまじき行為
今すべきはひたすら前に進み
助けられる兵達を活路へと導く事である
アキヨリはこれまで判断を誤った訳では無い しかし今正に壊滅への第一歩を踏み出そうとしていた
「アクヤすまん!もう一仕事頼む」
馬首を返そうと手綱を引いたがアクヤは頑として聞かず
更に全力で前進するだけだった
「駄馬め!もう良い!俺だけで行く!」
アクヤから飛び降りようと身をひるがえした
しかしアキヨリは身体に何かぶち当たった衝撃を受け馬上に止まざるを得ない
「アキヨリ様!御免!」
駆けつけたタキの真一文字に伸ばした右腕だった
力ずくで主君の蛮行を押し留めたのであった
そして槍を振るおうとしないアキヨリ守るようにアクヤを従えよく戦い
ついに敵陣を突破したのだった
「アキヨリ様どうか御無事で!」
「アキヨリ殿今迄楽しゅう御座いました!」
「おさらば!涅槃よりお守りいたす!」
取り残された兵達はアキヨリが追撃を受けないよう
しがみつくように戦いまた一人一人と倒れて行った
その声はアキヨリの耳にいつまでも鳴り響いた
死地を脱した六十騎ほどは間道の切り崩しあたりまで差し掛かり
一先ずは追撃を免れたように思えた
「タキめ!余計な事をしてくれた!」
「死んで行った者達の気持ちでござる 御免!」
今度は腕では無かった拳だった
「いつものように胸を張ってくだされ!
死んで行った者達の意思を命をその身に受けていながら
その程度の泣き言しか口に出来ないと申しますか!!」
アキヨリは黙って頷く事しか出来なかった
しかし拳は強く握りしめられているのを見てタキは少し安心した
しばらくして気を取り直したのかアキヨリが顔を上げると
ドスン!
切り通しの小高い崖の上から何かがアクヤの上アキヨリの後ろに落ちて来た




