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六角の花   作者: フミ
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長兄 石灯籠 次兄 石頭

兄には早く会いたかったが、

未だ支城を落とせない理由を何とするかアキヨリは考え込んだ。


ただ敵の様子がおかしい などというのは子供の言い訳だ。


そもそも言い訳自体好きでは無かったが、

言葉にすることが出来れば今まで気付かない何かを見つけられるかも知れないと、

ここ数日の出来事を記憶から引きずり出し、知性の卓上にぶちまけて 一つ一つを精査する作業を始めた。


アキヨリは考えに没頭すると周りが見えなくなるし、聞こえなくなる。


隣で歩いていたイエナガが必死に語り掛けていたが ついぞ気付かず、

イエナガの必死さの原因に正面からぶつかった。

目は開いていたのに見えていないのだ。


アキヨリは尻もちをつかんばかりに よろけて、今度は見る為に目を開いて ぶつかった相手を見た。


「石燈籠にでもまたぶつかってしまったか?」


石燈籠は言った。


「アキヨリ お前はどう思っている?」


「あっ!兄上!申し訳ありません、またぼんやりしておりました。」


参道まで迎えに出ていた長兄アキマサにぶつかったのだ。

アキヨリは 頭の中の(こけ)()した石灯籠から、

目の前で煌めく 赤と黒の小札を威し合わせた胴丸具足の認識違いを修正して、

真っ直ぐな視線を、重みと温かみと鋭さの混在する アキマサの眼差しと重ねた。

アキマサの整えられた口髭には僅かに笑みが湛えられている。

イエナガが 兄上は御怒りだなどと、アキヨリを急かし脅したのは事実とは反するようだ。


「詫びなど入れずともよい、早くお前の考えを聞かせろ。」


長兄アキマサの問いは、もちろん敵の支城を守る将兵の士気の高さについてのものだ。

アキヨリには当然通じるだろうと、言葉を最小限にしか用いないので、

隣で聞いていたイエナガが理解するのは少し間をおいた後だった。


己の不甲斐なさと自分が置いて行かれたことに 、イエナガはふくれっ面になった。


三人とも一族を、そして大名家を背負って行くには若過ぎる年齢といえるだろう。


アキマサの問いに暫く考え込んだアキヨリがようやく口を開いた。


「一週間リヨウが帰ってまいりません 。

それ以上は主観を交えませんと一言も申し上げられません。」


「だから その主観とやらを聞かせろと言っているのだ。

各地に放っている斥候達もたいして変わった事は言っておらぬ…だが何かあるのだ。」


兄も同じ考えだとしたり顔になったアキヨリだが、

イエナガの ふくれっ面を見て すぐにそれをひっこめた。


「奴らは援軍を待っています、それも近いうちに来る。」


「何処からだ?」


「奴らの残りの兵糧からして二十日以内に到着する距離から。」


イエナガが口をはさんだ。


「だからそんなものはどこにも無いと言っているだろう、考え過ぎだ!」


言い終えるかというところでアキマサが遮るように言い放った。


「それを調べるのだ、アキヨリお前は都に行け 。

御館様に援軍を要請するという名目でだ。

些細な異変も見逃すな。

イエナガはアキヨリに代わり支城を落とせ 、

力業でかまわん。

援軍が来るとなれば奴らの支城が厄介だ、我等は背後をつかれ一気に劣勢となる。」


イエナガは自分の意見が全く取り合って貰えず ふくれっ面が最高潮であったが、

得意の武勇を活かす好機を与えられ 辛うじて面目を保った。


「軍議といたす、皆を呼んで来い!」


アキマサは振り返り 境内の中の小姓に大声で命じた後、

アキヨリとイエナガに向かい今度は小声で告げた。


「只今のこと他言無用、アキヨリお前は手勢を率いて今すぐ赴け。

儂の馬を使え、 一刻も無駄にするでないぞ、よいな!」


アキヨリは両の手に汗をかいていた。

敵の援軍 それは味方の中にもあり得る、

この時代珍しいことでは無いのだ。

アキヨリは兄の駿馬にまたがるも、少しも心踊る事なく都へと旅立った。


つづく



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