子守唄
アキヨリは暇があればトウカの顔を見にやって来ては恐ろしい位のニヤケ顏を披露していた
「イヨ姉様、リッカ、初宮参りに行きたいのだが」
「そうだね今日で三十一日目だったね
行っといで麓の天神様だろ?
アクヤの足なら二時もかからないんじゃないかえ」
「すぐに帰って来て下さいね
お乳も飲ませないといけないのですから」
「なんだ、リッカお前は来ないのか」
「ちょっとねロクロを触りたくなったの
しばらくお休みさせて貰ってたから作ってみたいものが沢山なの」
「うん、うん、赤ん坊ばかりに掛かりきりになるのは気持ちが沈んだりする事があるからいいんじゃないかえ」
イヨ姉様とリッカがすんなりアキヨリにトウカを任せてしまったのは
アキヨリが異常に赤ん坊の扱いに慣れているからである
オタマとタノスケの赤ん坊も
やれ頭の形が良くなると言って年中寝姿を変えたり
オムツを替えるのも一番先に気付き手際良く替えていた
幼少の頃よりシジマ家中の赤ん坊の面倒をみて来たせいである
「ならば行って来る
アクヤ!アクヤはどこにおる」
縁側から放し飼いのアクヤを呼ぶと間を置かず長い鬣を揺らしやって来た
アキヨリお手製の竹製のねんねこを胸に縛り付けトウカを懐に大切に大切に収めると
鞍も付けずにアクヤに跨るアキヨリの姿はあっと言う間に見えなくなっていった
アキヨリはアクヤが走行する激しい上下運動を巧みにいなし
アクヤの蹄の音は懐のトウカにはなんとも居心地の良い子守唄となっていた
「あっち向け こっち向け 筑波見ろ
筑波の山では 白猫が
足駄をはいて 木登りだ
足駄じゃあぶない じょんじょがいい」
アキヨリも故郷の子守唄を口ずさんだ
アクヤも目を細め聞き入っているようだ
「じょんじょの鼻緒が 切れたなら
赤いかっこを 貸して…」
アキヨリの子守唄は途中で途切れた
アクヤも目を見開き鼻を大きく広げ少しでも多く光と臭いを自らの脳に叩き込んだ
目に入るのは不自然に飛び立つ鳥
鼻に入るのは鉄と火薬の臭い
「何者だ!姿をみせろ!」
アキヨリは地元の民が信仰する小さな天満宮の社に向い叫んだ




