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六角の花   作者: フミ
104/788

二つの書状

トミナリ城はまだ修復が続いている

ヒデカツの二番目の兄ヒデサトが城の修復及び城下町の復興を指揮

していた


あらかた城も城下町も元の姿を取り戻していたが

城下町に隣接するイワヤの港は商業目的にはまだ開放しておらず

二艘の御来屋の商船が入港してきた事により港に駐屯する兵が桟橋に駆け付けて来た


復興の為の物資を運び込む商船はもちろん入港する事はあったがナリカワの旗をつける事を義務付けられていた

軍旗とした黒地に白の丸に横三本の旗とは違い丸は二重の旗であった

ヒデカツはそれを持ち合わせてはいなかった


港の兵は十騎程の騎馬兵である

本格的な武装はしておらずさほど緊張感も無いようだ


「御来屋の船と見受ける

この港はまだ開放しておらん事 存じておろう

何か船に問題でも起きたのか」


ヒデカツが出て行けば何の問題も無かったのだが兄に借りを作りかねない

おっとり刀でやって来たので食糧や武装はトミナリ城の物をあてにしての事だった


ヒデカツが渋々 港の兵に応えようと船室を出ようとすると

タニザワ ヤノスケが引き止めた


「ヒデカツ様、父君から書状を預かって参りました故 拙者が対応して参ります」


「ヤノスケ!それを早く言わんか!」


「ヒデサト様にお会いになるのも借りを作るのもまっぴらで御座いましょう

書状にもヒデミツ様の事は記されておりませぬ

ほれ、この通り」


「ああ、だがこれをいつ父上からあずかった?」


「川中衆に声をかけ廻っていた時呼び止めれ託されたので御座います

勿体無い事にヒデカツ様を頼むとのお言葉も頂きました」


「そうか、お前にはいつも面倒事ばかりですまん

ぬけた風を装ってはいるが

俺はお前を頼りにしている

すまぬが頼んだ」


ヤノスケも例の九名の一人であった

ヒデカツは愚か者を装うヤノスケの実力を見抜いていたが

疑うという能力に乏しい彼はヤノスケが父の密偵だとは気付いてはいない


甲板から下ろされた縄梯子を下りながらヤノスケは港の兵に応えた


「タニザワ ヤノスケと申す者でござる

ヒデサト様にお取次ぎ願いたい」


「おう!ヤノスケではないか

今度は商人に商売変えしたのか?」


港の兵達の中にヤノスケを知る者がおり簡単にことは運び

ヤノスケはヒデサトのいるヨウコウ寺へと案内された


ヒデサトはシジマ家の水攻めにより破壊された水路の修復に陣頭指揮をとっていた

ヤノスケが境内に入るとヒデサトが声をかけてきた


「おう、腰巾着

御来屋の丁稚になったそうだな」


「へっへっへ、ご冗談を

お忙しい中のお目通り恐れ入ります」


「此度は何の用だ、父上にまた面倒な事を押し付けられたのか?」


ヒデサトはヤノスケがヒデミツ直属の裏仕事を専門とする乱破衆とよばれる忍者の一員だということは知っていた


「ヒデミツ様からの書状が御座います

まずはお目通しを」


ヤノスケがヒデサトに渡した書状はヒデミツに見せた物ともう一通の合計二通であった


「ほほぅ、まあここではなんだ

ついてまいれ」


ヒデサトは法堂とよばれる信者に僧が説法をする建物にヤノスケを促した

法堂に人影は無くひっそりとしていた

ヒデサトは胡座をかき黙って書状に目を通していた

始めは細面にたくわえた口髭をしごきながら読んでいたが

次第に表情は険しくなっていった

読み終わり暫く考えこんでいたが

片方の眉を吊り上げ口を開いた


「承知した!

食物でも槍でも鉄砲でも好きに持って行け!」


「ははっ!それでは急ぎます故」


ヤノスケが去った法堂でヒデサトは肩肘をついて寝そべり呟く


「父上はこのヒデサトを世継ぎと決めたようだな

フハハハハ」




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