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六角の花   作者: フミ
102/788

能面

人間誰しも現実の出来事を寸分の歪曲もさせず

ありのまま受け入れることなど稀な事では無いだろうか

自分の都合のいいようにあるいは著色しあるいは理由付けし

自分を正当化させてしまうものだ

大量の受け入れ難い事実に包囲されてしまえば尚更である

常々信念などと名付け己の根幹とし生きる拠り所として来たものでさえ荒波に漂う笹舟となる


数々の苦楽を共にした親友は今や美しい陶芸家を手篭めにし軟禁する落武者であり

かつて率いた者達を扇動し乱を画策する大逆の徒である

己は父の命を受け内密に義兵を募ってここにやって来たのだ

ヒデカツはニザエモンの密書に従いサカイの町外れにある武家屋敷の裏手にいた

密書にはこうも記されていた


お屋敷の裏手には道を挟んで水路が御座います

勝手口の前には船着場があり手漕ぎ舟が停めてありますのでそれに乗りお待ち下さい

舟の舳先に隠された面をつける事お忘れなく


ヒデカツは翁の能面をつけ水路の波に僅かに上下されていた


「我が主にお頼み事ですかな?」


声をかけられヒデカツが振り返ると翁の能面をつけた男が立っていた

いや、よく見れば表情が変化している

実際の翁のようだ


「作用、手を貸して貰いたい事が御座る

拙者は…」


「良き日よりで御座いますな

どうぞ中に…」


翁は名乗ろうとするヒデカツを遮るように屋敷の中へとヒデカツをいざなった


勝手口から庭を通り薄暗い十畳程の部屋に通された

カビ臭い部屋である大きな楠が見下ろす庭も荒れ放題だった

改めて庭に目をやり振り返ったが翁の姿は既に無かった


「サカイの町にこんな所があったとは

しかし胡散臭い

ニザエモン殿を信用していない訳では無いが大事を任せて良い相手なのか」


「得体が知れぬ故信用が第一の稼業で御座います

ミクリヤ様のご紹介という事でよろしいかな?」


「⁈」


落ち着いた声であったがヒデカツが肝を潰すには充分であった

薄暗い部屋の片隅には既に男が座っていた


「我も名乗らぬ故そなたも名乗らぬよう

くれぐれも」


目を凝らすと部屋の隅の男も面をかぶっている

ひょっとこの面である


「名を明かさぬなど信用出来ん!」


「名を明かさぬのはそなたの為ではあるまいかな?

我等の助けいらぬと言うなら帰られるがよい

周囲に気を巡らせていたそなたに気付かれ無かった我の腕前は信用出来るのでは?」


シジマ アキヨリを討つのである

手練れの者が必要である

それも絶対に口外せぬ者、万が一死んでも後腐れ無い者、後々口封じしても大義に触れぬ者

断れる訳は無かった


「分かり申した

一騎で百、二百をものともせぬ強者を屠る手伝いをして頂きたい」


「場所そして日時は?」


「場所はアキの国ホウライ山、山中

日時は一刻も早く」


「手伝いと申されたがそなたも何名か率いて行かれるか?」


「五十名程を予定している」


「敵は何名か?」


「一人だ…」


「いやいや我等も暇では無いので御座います

たった一人を大人数で…

五十もおられたらもう充分で御座いましょう」


「万が一にも撃ち漏らせんのだ!

逃げに徹すればどんな死地からも生還する男だ

腕の立つ者をありったけ貸して貰いたい」


「ほほう、今すぐと申されるなら当方も五十

報酬は七十万両」


「分かった、今宵出立出来るか?」


「無論、アキの国なら舟にて参る

二艘用意致す故一艘を使うがよい

ミクリヤ様の桟橋でお待ちしております故

細かな手筈など追々道中でと言う事でよろしいか?」


「ああ、よろしく頼む

それでは御免」


ヒデカツの御免は一刻もこんな所は御免だと言う御免であった

胡散臭いもの世の中の裏といったものを毛嫌いしているヒデカツは

不愉快さを垂れ流す早足で去って行った


「こんな感じで良かったかよ旦那」


隣の部屋からニザエモンが応える


「上出来で御座いますぞ

それにしても濁りきっていた目が澄みきっておりましたな

なんとも都合の良い御仁で御座いますな」



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