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六角の花   作者: フミ
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二つの窪み

胡座をかいた父ヒデミツに対し

両手を軽く握り茶室の畳につき

頭を下げたヒデカツの視界にはただ畳だけが映っていた

それが揺れている畳のヘリが何本にも見える

眼球が激しく左右しているのだ

少し頭を上げたのか眼球を上に向けたのか

いずれなのか本人にも分からなかったが父ヒデミツの胡座をかいた足が視界の上端に入ってきた

それがヒデカツには恐ろしくなりすぐさま頭を深々と下げた

強くかぶりを振った結果となり

冷や汗だろうか脂汗だろうか畳に数滴が落ち染み込んだ

綺麗に剃り上げられた月代には人差し指と中指を軽く押し付けられた様な二つの感覚

父の凝視する視線なのは確認するまでもない

いや、頭を上げ確認など出来るほど肝は座ってなどいない

乱世の大名家に生を受けたにも関わらず危機と呼べるだけの危機に瀕したのは生涯初だった

故に脆い


沈黙が続くと茶室の裏手に身を隠しているニザエモンは

茶室の中に差し向けた全神経をこの事態への対策を思考する為内側へ内側へと向け始めた


「小心者の度合いを踏み誤った!

いや、思い通りにならぬボンボンに親友のアキヨリを討たせ

心とは真逆な行為を強要させ

自己を喪失させ傀儡としてこき使うつもりか」


「ア…アキヨリの…」


「ん⁈ボンボンが口を開いたか?」


ヒデカツがやっと口を開いたので

ニザエモンは再び壁の向こうを全神経とした


「………」


ヒデミツは沈黙を続ける

ただ自ら発する何かでヒデカツをさらに重く畳に沈めていく

耐えきれなくなりヒデカツの声は裏返る


「殺せと仰せはアキヨリの事で御座いますか!」


「他に誰がおるか!」


「アキヨリには何の咎も御座いません!

むしろ世に有益な人間に御座います!

ご再考を!何卒!何卒!」


タガが外れたように食い下がるヒデカツにヒデミツは今度は幼子に諭すように語気を和らげた


「良く考えろそして思い出せヒデカツ

アキヨリと主君であり兄であるアキマサが意見を違えた事があったな

覚えておるか」


「はっ!エチゼン攻めの時で御座いました

野戦に誘き出した敵に奇襲をかけるか

手薄になった敵の本城を直接落すかで言い争いになっておりました

終いには子供の喧嘩の様に…」


「その時シジマの家臣達はどうしておった」


「皆笑って言い争いを止めるでも無く

囃したてる者までおりました」


「お前がアキヨリを軍師と迎えた後

お前とアキヨリが意見を違えた時どうなると思う」


「我等は兄弟ではありませぬ故

喧嘩には至らぬかと

よく話し合い…」


「アキヨリには死んでも譲らぬ事柄が幾つかあるぞ

それに関わる意見の相違となった場合

お前を支持する人間とアキヨリを支持する人間この日の本にどちらが多いと思う」


「そ、それは…」


ヒデカツはひいて行きかけた脂汗を再び噴出した


「考えるまでもないわ!

おのれの将器を見誤るな!

シジマ アキマサに及ぶとでも思ったか!

アキヨリを使いこなせる人間あっての有益だ

今となっては彼奴を軍師と迎えなるなど獅子身中の虫以外の何物でもないぞ!

いつから彼奴が生きている事を知っておった!

彼奴の首を持って来い

でなければ家督どころかお前の首が無いと思え!

分かったらとっとと去ね!」


「父上…」


「去ね!!」


ガチャン!


父に睨まれ二つの窪みのあった月代に今度は茶碗を投げ付けられ

眉間に赤い一筋を流し後ずさりを繰り返しヒデカツは茶室を後にした

ヒデカツの去った後ヒデミツは身を横たえ片肘をつき呟く


「全く小賢しい!

つくづく弟を思い出すわ

彼奴の祟りか…

祟りなんぞに一生付き纏われたらかなわん

よい機会かもな…」



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