ハルマン/大正:恐竜の住む島その4
そうして数日後、望月探偵事務所にて彼らは情報を交換し合った。
「では、話をまとめますと……その島は一度軍が発見し秘密諜報部による実験施設があった可能性があると
ヴァルムンクについては四葉さんの曾祖母である一穂さんが柄を持っていて、その島を知っておられる。
テウルヒアについては間違いなくゴエス財閥の長であり、二人の関係はビジネス。
マーリンの元で学んだ召還師でもある……と」
黒板を前にハルマンがいくつもの情報を束ねる。
「一体これはどういうことなんですかお父様……」
うーむと頭を抱える四葉。
「恐竜だけではなく、そのヴァルムンクや実験施設の方で何かあるのかもしれませんね」
ハルマンはしれっとしたものだ。対して大悟が深刻そうな顔でうなずく。
「軍内部で何かが動いている……のやも知れぬな」
「何かわかりませんか望月様?」
「探偵は証拠がそろわない段階では安易に推理を口にしないものなのさ。
そこでどうだね、ハルマン君。魔術師の視点から言って見ては」
早くも立ち直っていつもの適当な調子を発揮する望月。
「では、一つ推理披露といきますかな」
ハルマンは軽く微笑むと滑らかな声で話し出した。
「彼らの今までの行動や島の情報を鑑みるに……
豪一翁はどうしても「島にあるもの」が必要だった。
それも極秘裏にね。テウルヒア穣も「それ」を狙っている……
テウルヒア嬢と豪一翁の利害が一致した、それが考えられる仮説ですな」
さも探偵のように静かに推理を披露するハルマン。
ここまでは皆うなずいた。
そして道化は呪いかける。いつものように言葉で人を縛る。
「豪一氏がここまでしてあの島にこだわった理由…それは、あなたのためです。四葉さん」
ハルマンは四葉を指差す。これもまた、呪なのか。
「私、ですか……?」
「あの島に何があるかは解りませんが…翁が恐竜狩りなどという道化を装ったのも、何人も死人が出た上で軍艦まで作って調査を強行したのも…あなたにその遺産がなんとしても必要だったからでしょう」
そして四葉は懐から剣の柄を取り出す。
「ヴァル……ムンク……これのため?」
「なるほど、これは愉快」
ハルマンは確かにその柄から魔力を感じ取った。
これはただの柄ではないと望月とハルマンには解った。
「ああ、ジイクフリイトの剣か」
そしてハルマンは呪を自ら解く。
「……とはいえ、なぜあの島に魔剣があるのか。あの島は何なのか。そこまでは解りませんがね」
「だがそれではゲーティア穣はなぜ豪一さんにそこまで協力するのだ?」
「剣ならば、なぜ絶対に必要なはずのコレがここにあるのでしょうか?」
そこで手番が魔術師から探偵に移る。
「ふむ、ハルマン君の推理を付け足すならば逆に考える事だよ。
刀身の部分はあの島に封印された。だから柄とばらす必要があった。
でも何かの理由で今必要になった……とかね」
「まあ、私のは穴だらけで真相にたどり着いてもいない仮説ですがね。
ですが呪にはなったでしょう?」
ははは、と大悟が笑った。
「なるほど、これは一本取られたな望月の!」
「まあ、これが現時点での僕らの調査結果だね。
すまない、出航までには間に合いそうにないよ。お金は返すさ。
というわけで僕は寝る」
望月は衝立の奥にある和室に引っ込んで寝転がる。
「むう、これで島に挑むのは中々厳しい……おい望月の!寝るな!」
「望月様ー?まだ寝るには早いですよー?」
「疲れたんだほうっておいてくれたまえ」
そこにはかすかに失った知り合いへの悲しみがあった。
「さて、目が覚めたときのために上等のコーヒーを用意せねばなりませんな」
ハルマンが手際よくコーヒーの用意をする。
「大丈夫です、西園寺望月様はやるときはやる、やらないときはトコトン出来ない方です!」
「なに、それが探偵作法というものですよ。四葉さん」
ハルマンがフォローし、大悟が苦笑する。
「まったく望月の奴め……」
「とにかく、ありがとうございました皆さん。島には何が起こっても良いよう万全の戦闘態勢で望みましょう!」
「うむ、四葉さんは頼りになるね。僕はそれまで英気を養っている事にするよ」
衝立の置くから、声がした。