ハルマン/大正:恐竜の住む島その6
さまざまな思惑を乗せたまま船は島へとたどり着く。
白い砂浜にはしごが投げ出され、一行は上陸した。
白い砂浜の近くにまで鬱蒼とした大森林がみっしりと広がっており、その異様な大きさの木々は人々の目を奪うに十分なものだった。
「いいところなんですねぇ…恐竜出るけど」
「兵器開発所ですけどね」
四葉とハルマンが砂浜を踏みしめながら会話している。
「それが少し腑に落ちないんですよね。何故天道様一人だけが調査団から離れたのか…」
「さて、これ以上はもはや現地調査のほうが早いかと」
前を進む大悟は腰の刀に手をかけながら油断なく進んでいく。
「竜…と言えども所詮は蜥蜴と言う事だ、砕くには十分…むっ!」
そのとき、彼らの魔術的感覚に強烈な妖気が感じられた。
「これはっ! どうやら歓迎パーティーが開かれるのかなっ?」
「どうやら軍隊式の歓迎のようですな所長」
望月が楽しそうに笑い、ハルマンも笑う。
「ふふ、鬼退治ならぬ竜退治と言った所かな?何にせよ強者と戦う事は武士の誉れだ」
「鬼が出るか蛇が出るかだね」
「望月の…楽しくなってきたな!」
「まったくだ!虎殺しならぬ竜殺しになってみるかね大悟!」
「おおよ!我が『奥津姫』と『磐長姫』に西洋の『ぐらむ』もかくやと言う伝説を刻める!」
男達は冒険に心躍らせそれぞれの武器を引き抜く。
遠くに翼竜と細身の恐竜がこちらに向かってくるのが見えた。
「ほ、本当に恐竜なんですね……この距離であの大きさ。めまいがしてきました」
四葉はため息をつくと異次元からからくり装甲・武魁を召還し中に乗り込む。
「さて、今日もまた珍しいものが見物できそうですねぇ」
にやりとハルマンが笑う先には、恐竜の群れたちだ。
恐竜達がそれぞれに向かっていく。
肉食龍が四葉に向かい、武塊の巨体と打ち合う。
「武魁の装甲でも弾ききれないなんて…重い!」
大悟のほうには翼竜が向かい、その素早さでなかなか確実な当たりをつけさせない。
「くっ、化鳥め!」
一方、魔術師達はその姿を魔術迷彩により隠しながらこそこそと術を編む。
「ふむ、では僕ら魔術師も魔術師なりの戦い方を見せようか」
「助太刀いたしますよ所長!」
二人の魔術師による呪の輪唱が辺りを覆っていく。
妖気が彼らの術によって薄まっていく。
「我ここにあり、よかろう、冥府の門にかけて」
「ありとあらゆる災い、彼に触れざるなり。彼いずこにおれど聖なる守護あればなり」
そして望月は懐から拳銃を抜き出すと翼竜に向かって撃つ。
「悪しきものよ、疾く、疾く、この場より立ち去れ。
起きよ、起きよ、魔弾よ。契約によりて敵を穿て」
銃弾は曲線を描いて翼竜の翼を貫く。姿勢を崩した翼竜に大悟がとどめの一撃を見舞った。
「助かったぞ望月!」
「やれやれ、肉体労働向きじゃないんだけどね」
四葉の方も持ち直していた。からくりの鎧武者は炎でできた巨大な剣を振り回し恐竜に切りかかる。
「虎臥……傀儡!」
ぎゃん、と恐竜が鳴いて地に伏せる。
「大悟様には届きませんか!」
「今の一撃、申し分なし!惜しむべきは僅かの握りこみ!」
盛り上がる二人に対してハルマンは四葉の驚異的な成長に驚く。
「いやもういつのまにそこまで鍛えられたのですか…」
恐竜は立ち上がり再び咆哮して噛み砕きにかかる。
だが翼竜の相手を終え、大悟が戦線に加わるとあっという間に片がついた。
「原始へ帰れ!迷いし竜よ!」
「硬い…だが断ち切る!」
大悟と四葉の二連撃により恐竜は悲鳴を上げて息絶えた。
「いや、最初はどうなることかと思ったが……西園寺望月と愉快な仲間たちの前では大したことはなかったね」
とりあえず当座の敵はいなくなった。辺りには竜たちの屍が横たわっている。
「表面は硬いのですが、コレは一体…やはり呪術の類になるのでしょうか?」
四葉が武塊の腕で竜をつつく。内部はがらんどうに近いシロモノだった。
「ネクロマンシーだそうですよ四葉さん」
「ふむ、生き物として少々不自然ではあったかな
死霊術は詳しくないけど、まあ不完全なのは見れば解るよ。
だからこんな歪な奇襲兵器になったんだろうね」
そこで大悟が気づく。密林の奥に巨大な西洋風の城が立っていることに。
「おい望月……あんなものあったか?」
「いや、さっきまでは何かの幻術の気配があったね。
どうやらあちらさんも気づいて姿を現したらしい。
僕らは招待にあずかったようだよ」
城は灰色に霞んでおどろおどろしい。まさにまるで吸血鬼の城のようだ。
「なるほど、どうやらあれが目的地らしいな」
「死霊術師の城ですか。…やっと、やる気が出てきました」
四葉が決意を新たに城を睨む。
「あの程度では相手にならぬと、いやはや四葉さんも中々にもののふだ」
大悟がからからと笑った。
そこにあたらな龍がやってくる。今度は子供の背丈ほどの小型の龍だ。
皆が構えるが、その前に船にいた者達が援護射撃をしてきた。
中には剣を持って切り伏せる者もいる。
「おお!大悟、いくのかー?」
「ええ、迷える竜の供養の為にも」
「退路の確保はまかせとけー!」
「頼みましたよ、師匠!」
その中には大悟の師匠犬塚志野の姿や、部下の中島美紀曹長の姿もあった。
「中島曹長!無理はするなよ!」
「これからは女性も頑張らなくてはいけない時代ですからっ」
美紀はクルウスニクという魔剣を振り回して次々に龍を屠っていく。
志野は小柄な体を存分に生かし、素早い動きで次々にしとめていく。
「……本当に強いですな」
ハルマンが半ば呆れたようにその物理的攻撃力を眺める。
魔術の世界で生きてきたハルマンにはこのような純粋な武力は目新しいものだった。
ましてや、それを振るうものが女性というのも、この時代新しかった。
「ああ、何故か俺の周りの女性は骨がある…新しい時代の形と言う事かな?」
大悟は四葉にウインクする。さわやかな笑顔だった。
「は、ひゃい大悟さん……!」
望月はやれやれと肩をすくめ、四葉が赤くなった。
そして一行は城を目指して密林の中へと入っていった。




