誰も本心は分からない ☆3
週末、土橋を飲みに誘った。もともと、大学のサークルの後輩だから、お互いに話がしやすい。
こう言うとき、大学時代にしっかりと後輩の面倒を見ておいて本当によかったなと、大学時代の自分に感謝するのであった。
「この前、田村先生に聞いたんだけど、磯辺、美術の時間、いつも上の空なんだってね」
「そうなんですよ。田村先生の話では体育も見学ばかりしているらしいんですよ」
「大室先生も同じようなことを言っていたから、数学もそうらしい。実は社会もそうだったけど、社会だけなんだろうなと思っててさ。まさか、全教科ひどい状態なんて思うわけないだろう…」
僕は土橋に対して、あっけらかんと思ったことを言った。こう言う時、大学の後輩だと遠慮なく思いの丈を語れるので助かる。
「えっ、全教科なんですか?」
「そう、全教科。あの後、田村先生、心配になって他の教科の先生にも尋ねたそうだよ。そしたら、全ての先生が2学期に入ってから急に授業態度が悪くなったと言ったらしいよ」
土橋はそこまで知らなかったらしくて、磯辺の極端な態度の急変に驚いていた。どうやら、私のせいだと思っている節があったので、その誤解を解くことにした。
大室先生も、田村先生も、土橋も、どいつもこいつも、私が問題だと考えているに違いない。私は何もしてない。私も被害者じゃないのか?
「言っておくけど、俺はまったく関係ないし、悪くないよ。むしろ、磯辺にふり回されている被害者さ」
そう言った後でますます首を傾げる土橋を見て、言い方がまずかったかなと思った。もっと、他の表現にすればよかったけど、他の表現が思いつかなかったのだから仕方ない。
多分、土橋は私を無責任な奴だと感じたに違いない。なので、さらに詳しいいきさつを話して、自分がどうこうできる問題ではないことを伝えることにした。
「なるほど、そう言う意味での『関係ない』と言うことなら分かります。でも、これまでのいきさつを考えれば、薮から棒に『関係ない』なんて言うと誤解を招きますよ」
「確かに、そうだな…」
「まあ、そう言いたい福井さんの気持ちも分からなくはないです。結局のところ、外野の人々は好きなように言えますからね。僕も美術部の顧問として、磯部さんとは結構関わってきましたが、今回のことばかりはまったくわかりません。本当のところは当事者しか分からないですよね」
私は土橋のようないい後輩を持てたことに心から感謝した。彼は彼なりに私の苦しい心の内を察してくれたのだから。
その上で外野からこの問題がどのように見えるのかを教えてくれた。このような客観的な物の見方ができる大人が世の中にどれだけいるのだろうか? こんな人がもっと増えたら世の中はもっと穏やかになるに違いない。




