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53.小さな命


久しぶりの更新で申し訳ありません!

体調も戻りましたので、また更新再開致します。

以下、間が空いてしまったので簡易あらすじです。


・アリアンナ殿下登場で、元の姿に戻れると判明。

・二人には複数の魔法が掛けられてました。合体しました。と判明。

・閣下が夜中にファラを堪能していたことが発覚しました。悪びれず。

・元に戻ったら少なくとも別の部屋で。それまでは、閣下と一緒に過ごすと決意。

・魔獣の子の意識が消えつつあるので、一刻も早く変化を止める必要あり。←いまココ



大体こんなところです。ではどうぞ!





 ――もしかしたら今夜、魔獣の子の意識が消えてしまうかもしれない。


 その言葉は、強い衝撃で私の胸に響いた。


 まさか、そんなにも差し迫った問題だったとは思っていなかった。

 悠長に今後の閣下とのこととか、私の身の振り方とか、考えている場合じゃなかったんじゃないかと、急に焦りが増した。独りでヒトに戻れることの喜びを噛み締めていたけれど、その反対側では今にも消えそうな命があったなんて。

 ううん、それだけじゃない。

 頭の中に、“精霊じゃないよ”と言った魔獣の子の悲しげな声がよみがえる。

 “悲しげな”声。

 そうなんだ、魔獣の子にだってちゃんと意識があって、感情があった。何かおかしなことに巻き込まれてからずっと、私と一緒にいたんだ。それこそ、私が魔獣の姿について嘆いていた間も、ずっと。


 ――魔獣の子は、今までどんな思いで私とともにいたんだろう。


 ファラティアの意識があるのに魔獣に生まれ変わったと思って不安になったとき。

 魔獣のオスとしての義務を思い浮かべて恐ろしくなったとき。

 ファラティアは死んだんじゃなくて、生きたまま身体だけが魔獣になってしまったのだと知って憤りに苛まれたとき。

 いつも私は、受け入れているようでいて実は魔獣の身体を厭わしいと思っていたんじゃなかった?

 ときには明確に、魔獣の姿なんて嫌だと強く思った。

 それらの気持ちが浮かぶのはヒトの意識としては仕方のないことだったかもしれないけれど、でもそれって魔獣の子にとってはどんなに失礼なことだったんだろう。

 私が魔獣の身体を受け入れられず、何度も嘆いていた心の叫びを、彼はずっと誰より側で聞いていたはずだ。

 だって、彼は私の中にいる。

 彼は私を飾り袋のもとへ運び、私の身に起きたことを知るための手助けをしてくれたのに、私はそのあとで知った“転生したんじゃない”という事実に打ちひしがれて、何を思った?


 ――どうして魔獣“なんか”になってしまったの?


 ――私は魔獣“なんか”じゃない!


 ――“こんな姿で”これからどうすれば


 ……そんなことを何度も何度も、心の中で叫んだ。

 私の嘆きはそのまま、魔獣の子の存在を否定するようなものだったんじゃないのかな。

 あのとき、「精霊じゃないよ」と呟いた魔獣の子の気配は、酷く傷ついていたように思う。傷つけたのは明らかに私だ。

 そして、あれ以来、消沈した魔獣の子の気配を近くに感じることが出来なくなった。

 ただでさえ沈みつつあった意識に、追い討ちを掛けるようなことをしてしまったんじゃないかと、その可能性に気づいて胸が詰まった。


 私に事実を伝えようとしてくれた子に、私はなんてことをしてしまったんだろう。


 突きつけられた事実はとても重い。

 急速に頭が冷えていく。

 私、本当に今まで何をしていたんだろう……。

 自分だけが辛い状況にいるのだと思った。何で私だけがこんな目に、なんて気持ちもあった。

 だけど、私以上に辛かったのは、他でもない魔獣の子の方だったんだ。

 きっと魔獣の子だって何もわからず、気づけば自分の身体を別の存在が使っていて、しかもその人は魔獣の身体であることを嘆いている。それを側でずっと感じているなんて……。


 そんな思いが一瞬にして頭を駆け巡って、私は目の前が真っ白になるほど呆然とした。

 硬直した私を視線で気遣いながらも、アリアンナ殿下は説明する。


「……本来、一つの身体に二つの意識が存在することは異常なことです。そんな異常なことが起こってしまったことで、身体が自浄作用として魔獣の子の意識を少しずつ沈めていったのかもしれません」

「でも、何故、少女ではなく魔獣の子の意識の方が消え入りそうになっているのです? 普段の身体が魔獣の姿なら、魔獣の子の意識が前面に出てもおかしくはなかったのでは?」


 鳥の巣頭さんの質問はもっともだった。

 一つの身体に二つの意識。それなら、消えるのが私でもよかったんじゃないだろうか。

 そうすれば、きっと魔獣の子を傷つけるようなこともなかった。私自身だって、これから先のことを悩むなんてこと、なかったかもしれない。


 ――ああでも……。それじゃあ、閣下や鳥の巣頭さんとこんな風に接することも出来なかったんだよね。


 そんなことを思ってしまった私は、やっぱり自分本位で身勝手だ。


「少女の意識が表層に出ているのは、ヒトの意識の方が生に貪欲だからだと思います。もちろん、生物は皆、生きることに必死です。全ての生物が本能として、“生”に執着するものです。

 ですが、ヒトほど“死”を恐れる生き物はいないのではないでしょうか。

 ヒトは“生”を渇望し、“死”を恐れる。深く思考し、“生きたい”“死ぬのは怖い”と強く思うのがヒトだと思うのです。

 ヒトはときに、生きるためならばどんなことでもする。少女がそうだというわけではありません。本質的に、魔獣とヒトならば、ヒトの意識の方が強かった、ということなのだと思います。

 まして、魔獣はまだ幼く、自身の置かれた状況――己が消えゆきつつあるという事実を理解していなかった可能性も高いです」


 つまり、やっぱり私が魔獣の子を追いやってしまったんだろうか。

 それが私にどうしようもないことだったとしても、私が魔獣の子にしてしまったことを考えると、後悔ばかりが胸を突いた。


「ですから、一刻も早く、魔力の固定化を施して、魔獣の子の意識を守らなければなりません」

「――!」


 そう言ったアリアンナ殿下の凛とした声で、私はハッとした。


 そうだ、私、何を嘆いてばかりいたんだろう。

 何も、魔獣の子はまだ消えたわけじゃないのに、まるで取り返しのつかないことみたいに。それこそ、とても失礼なことだった。

 確かに、傷つけてしまった事実は変えられないけれど、まだ間に合うんじゃないだろうか。

 無事に一人と一匹に別れられたら、今までのこと全部、謝ろう。心の底から。

 私が謝るだけじゃ、傷ついた魔獣の子の心は癒せないかもしれないけれど、どんなに拒否されたとしても、私は誠心誠意、感謝と謝罪をしなくちゃいけないはずだ。

 それに、魔獣として生きた生活を嫌なことばかりじゃなかった、って伝えたい。

 魔獣の姿でなければ、閣下は助けてくれても側には置かなかったと思う。魔獣の姿のお陰で、閣下や鳥の巣頭さんに出会えたんだ。

 二人の優しさに触れて、私は少しは成長できたはずだ。

 後ろ向きなことばかり考えちゃ駄目だってことも、実感として知れたんだものね。


 ――だから、アリアンナ殿下のおっしゃる通り、まずは早く魔力の固定化をしてもらわないといけないんだ!


「キュウ!」


 アリアンナ殿下に、私は大きく同意の声をあげた。



 ◆◆◆◆


 それから、魔力の固定化の魔法をしっかり掛けてもらった。

 これについては、やっぱりどこか閣下が納得いかないような雰囲気を醸し出していたんだけれど、止めるための理由も見当たらなかったのか、閣下はどこか憮然として作業を見守っていた。何にそんなに拘っていたのかは全然わからなかった。 

 意外と固定化の魔法はあっさり済んでしまい、半刻ほどで緊張から開放された。


「唐突に魔力の流れを止めてしまったから、変化の周期である夜に少し体温が上がったり、寝苦しくなってしまうかもしれないけれど、我慢してね」


 終了の合図と同時にぶるぶると身体を震わせていた私に、アリアンナ殿下がおっしゃった。


「キュウ!」


 我慢します! と元気にお返事しておく。

 魔獣の子が消えてしまわないように必要なことなら、どんなに辛くても我慢しなくちゃならない。絶対に、魔獣の子が消えてしまうなんてあってはならないから。

 それに、ヒトの姿に戻るためにも必要なことだから、それも含めればちゃんと我慢できる。


 私はずっと、本当は人間の女の子なんだ、ってことを誰にも気づいてもらえないと思って、どこかで独りぼっちな気がしていた。

 だけど、実際は全然そうじゃなかったんだよね。

 魔獣の子は、私の意識ばかりが表に出ていることを責めもせず、私の置かれた状況を知る手助けをしてくれた。

 セイレア様は、偶然だとしてもそのお姿を見られたことで、私に立ち直る切っ掛けをくれた。

 私がこうして元気でいられるのは、閣下と鳥の巣頭さんが私を受け入れてくれたからだ。ヒトに戻る道を見つけることも、閣下と鳥の巣頭さんが気を配ってくれなければ叶わなかったかもしれない。

 そしてアリアンナ殿下は、たとえ閣下の要望があったからだとしても、私のために嫌な顔一つせずに対応してくださっている。

 アリアンナ殿下のお陰でたくさんのことがわかったし……。

 初めは閣下にアリアンナ殿下のところに行って欲しく無いなんて思っていたのに、自分のためだったと知ったらころりと気持ちが変わるなんて、私って本当に現金だと思う。そのことについては、こっそり心の中でアリアンナ殿下に謝罪しておいた。

 私は、こんなにたくさんの人に助けてもらって、今ここにいる。

 それを、この先もずっと忘れちゃいけないと思った。


 ――ところで、熱が上がるってことは、風邪みたいな感じになるのかな……?


 今夜も一緒に眠るだろう閣下に迷惑が掛からなければいいけど……。

 そんなことを思っていると、ソファに座って一息ついていたアリアンナ殿下が思い出したように声を上げた。


「忘れるところでしたが、先ほど申し上げた通り、魔獣と少女を切り離すために少女の特徴を知る必要があります。本日はもう分離の魔法をかけることはしませんが、少女の特徴だけお聞かせいただいてもよろしいですか?」


 尋ねられた閣下は、膝に引き寄せた私をひと撫でして鷹揚に頷いた。







羞恥プレイが始まりますよ!



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