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そうしてワタシは瞳を閉じた

作者: 空橋紡

少女マンガみたいなノリで書いてみました。

ま、気晴らしにどうぞ

私は今、人生の絶頂期にいる。

これは誇張ではない。理由もしっかりとある。



夢が叶ったのである。現実のものとなったのである。実現したのである!



9年越しの願いであった。

ぁぁあ、長かった。こんなに人を想い続けたことはもう私の一生では無いだろう。

うん、ない。


そこはかとなくアプローチをかけ続けるも「効果がないようだ」と言わんばかりの無反応。



毎朝一緒に登校しようが、お昼のお弁当をつくってやろうが、メールやら電話やら頻繁にかけようが、部屋に乱入しようが、寝顔観ようが、抱きつこうが、胸当てようが、お泊まりしようが、入浴所でばったりあおうが!



無反応、無表情、無関心。




そんなアプローチも9年続けばコント染みてくるわけで。もう端からみたら日常光景。春夏秋冬とかとおんなじみたいな状態。

私の堪忍袋の緒が綺麗な音を立てて袋ごと破裂したのは、うん、冬に雪が降ったり夏に台風が来たりするくらいの自然な流れ。



公衆の面前で相手の胸ぐらをグイッと掴み、吊し上げ、ブンブンと数回ほど引いて押してと振り回し、罵声罵倒。



そしてからの告白。


「あんたを好きなこの想いどうしてくれるんだ!返せ!私の9年間の努力と青春!」





うん、わかってるって。



まぁ、いいことよ。




その奇行のおかげで私の想いは叶ったのだから。




「あぁぁ、しあわせぇぇぇ」



口を押さえなければ! しあわせが口から漏れて逃げてしまう。




溢れんばかりのしあわせオーラ。鏡を見る必要もない。

バイト中、仕事そっちのけでしあわせを噛み締めたっていいじゃないか。



「いいよね!桂さん!」


「多分、ダメじゃないかな?何がいいのかわからないけれど」


桂さんはいつもと変わらぬ眠そうな顔で否定。

声はそこまで眠気を帯びていないが、そんな顔に見える理由は、ズバリ目である。半開きのその瞳は全体の印象を眠そう、と言わせるほどの存在感。



「仕事よりも恋に生きる、いい響きじゃないですか?」


「今は仕事中。お金貰ってるんだからしっかり働きなさい」


「そういう桂さんもいつもと変わらず眠そうじゃないですか」


「私は仕事はしっかりしてるからいいんです。やる気はないけど」


頭を左右に一回ずつ大きく揺らし、ボギ、ボギ、という骨のいい音が鳴り響く。こっちまで聞こえるから聞いてるこっちがビックリする。

折れちゃうんじゃないかってくらいいい音がするもんだもの。


「携帯見てきていいですか? 愛しのダーリンからメールが来てるかもしれないし」


「寝言は寝ているから許されるんだぞ」


「いいじゃないですか。お客さんもいないんだし」


「監視カメラは起動してるけどな。減給されたいならどうぞ」


「桂さんのいじわる〜」


「私、Sだから」



ぎゃふん。

桂さんは冷たい。そしてちょっとサドッ毛もある。しかし、今の私にはそれすら程よいスパイス。

あまりにもニコニコしていたら気持ち悪い、と一喝された。

しかも、桂さんだけじゃなくて常連さんのおばあちゃんにも。






桂さんからは冷たくあしらわれ、常連のおばあちゃんには気持ちわるがられ、それでもしあわせオーラ全開であった私。

アルバイトの終了までを一人でカウントダウン。そして0になった瞬間「お疲れさまでした!」と即ダッシュ。

レーサー顔負けのイナーシャルドリフト、そして携帯をキャッチ&リリース!



「ってリリースはダメェェェエ!」



空中に飛来するマイ携帯電話を大慌てでバシッとキャッチ。

いけないいけない。ついノリで放り投げてしまった。恐るべし、LOVEパワー。

致し方ない、全ては愛ゆえに。

と、こんなコント染みたことをしていないで携帯を見ないと。

愛しの彼氏からのメールがないか胸をワクワクと踊らせて開いてみると、新着メールのお知らせが画面の左下にちょっこりと。

キタ。キタコレ。

決定ボタンを猛連射。早く彼氏からのメールを見てアルバイトに疲れた心を癒したい。

が、出てきたメールは「さき読みニュース」という件名のメルマガだった。

他はと確認しても、このメルマガ一件だけ。

確認した瞬間、私は固まった。

いや、白くなったとも言える。

頭の天辺から粉雪のようにさらさらと灰になりそう。


「おい、七希。まだあがるにははや――おーい、戻ってこーい」


「が〜づ〜ら〜ざ〜ん!」


「泣くな喚くな引っ付くな」


抱き着くも直ぐにはがされる。優しくない、やっぱり優しくないよう、桂さん。

この彼氏からのメールが着ていなかったいかにも可哀想な美少女が抱きついてきたというのに。

「ティッシュ、貸してください」


「はいはい。あぁ返さなくていいから。お前の汚い鼻水付いたティッシュを返されても困るだけだしな」


「容赦ないですね」


優しさを本当に欠片程度染み込ませた言葉の刄を全力で投げる桂さん。

アルバイト、とはいっても大通りから少し外れた場所に位置するコンビニの夕勤。時給も底辺低空飛行の微々たるもの。

本当にお小遣い程度にしかならない。桂さんとかがいなかったら多分すぐやめてたと思う。

桂さんはここに入って初めて一緒になった大学生の先輩。但し、やる気はずっとこの感じ。こちらとしても気楽なのだが、たまにこんな感じでいいのか不安になってしまう。

愚痴愚痴と不平不満を溢しつつ、ジュースの棚入れをやり終えてようやく終了。愚痴をいう度に見事なまでのカウンターを受けていたがもう気にしないくらいの心の強さは持っている。

慣れって、怖いわ。


「桂さん、今日はバイクなんですか?珍しいですね」


帰り支度をしているときに目に止まったヘルメット。手に取ったのは桂さんだった。いつもは車なのに。


「この前どっかの下手くそにぶつけられて修理中。バイクなんて久々だったからヒヤヒヤしながら乗ってるよ」


「バイクカッコイイじゃないですか。ほら、彼女を後ろに乗せて、夕焼けの海沿いを走る、なんてロマンチックじゃないですかぁ〜」


「考えが一昔ずれてるな」


「ギャフン!」


ちなみにこれ、私の夢の一つでもある。いつかやってもらうんだ。

桂さんがバイクに乗って帰る頃、私は自転車に乗って自宅へと向かった。

結局、その日はお風呂に入ってから私がメールを送るまで彼からのメールは来ることはなかった。
















翌朝、相変わらず慌ただしく玄関を出ると門の近くに人影が。

大体誰なのかは察し付いてはいるけど、昨日のメール事件で少し腹が立ったので忍び足で近づく。射程圏内に入ったらすぐさまアタック。


「おはよう、真子」


「おはよう、しゅうちゃん。そして少しは痛がってよ」


「真子の力じゃいくら食らっても上手く痛い演技はできないよ」


「〜、いじわる」


「はいはい、そう拗ねない。それに急がないと学校遅れるぞ」

「しゅうちゃんと一緒の方がいい」


「学校サボるような子って、ちょっと苦手なんだよな」


「さあ今日も張り切って行こう!」


しゅうちゃんとは小学校からの付き合い。とはいってもつい最近まで『友達の妹』なポジションだったわけだが、努力の甲斐あってランクアップした。

初めての出会いは家の居間。小学校から帰宅し、おやつがないものかと戸を開けた先にお兄と一緒にいる所。ちなみにこの時既に一目惚れしました。以来、お兄から情報を奪――聞き出し、必死に後を追いかけて9年間。

告白なんて何回もやったしイベント事にもアタックした。一人暮らしを始めた時はアパートに突撃。流石にそのあとこっぴどく怒られた。

それでも、その甲斐あってかこうして今のポジションにいるわけであるから、継続することって本当に大事なんだと思った。

しかし、それでも不安はある。

いざ、つきあう事になってもしゅうちゃんの態度が変わらない。何をしても今まで通り、つきあう前と変化なし。

手も私が強引に行かないと繋いでくれないし、キスすらまだ。

こうなると、不安になって仕方がない。しゅうちゃんは、本当に私を好きなのだろうか。



だから、早く確かめたい。


「ねぇさえちゃん」


「なんだい?まこりん」


「付き合ってから何日目でエッチした?」


みんな咳き込んだ。こちらが真剣に質問してるのに失礼な友達だ。


「いきなりなにをいう」


「だからどのくらいでエ「ギャー言わんでいい!」」


今度は口を押さえられた。そうして、ほっとため息を一斉につく一同。


「とりあえず、どうしてそんな質問をすることになったのか、理由を言ってみなさい」


さえちゃんたちにに今の悩みを語りだす。話し始めると不思議なことに感情が乗っていき、段々と所々に拳を握り締めたり、抑揚を取り入れたり、最後には握った拳を突き上げていた。

どうしてこうなった。

そっと静かに席につく。


「あはは、熱くなりすぎ。で、彼氏に愛されているか確認したくってさっきの発言に繋がるわけか」


「色々と飛びすぎ。つきあえたのってついこの前なんでしょ?」


「うん。その時はつきあってって土下座して告白した」


「うん、まぁいいよ。その告白に関しては何も聞かない。で、それでもつきあえたんでしょ、その9年間の想い人と。なら急がなくてもそのうちになるようになるって」


「そう?やるときやんないとダラダラ無駄に長引いてお互い冷めちゃってはいさようなら、なんてよくあるよ。真子の場合、半ば無理矢理つきあってるんだから多少なりとも強引にもってかないと」


かなちゃんの意見がグサリと突き刺さる。そう、わかっていた。強引に彼女の座まで登りきったけど、何時崩れるかわからない。


「けどまこりん、まだつきあって1週間しかたってないじゃん。ちょっと軽く思われない?」


「衣里は真面目すぎ。見た目は少しチャラい癖に乙女なんだから」


かなちゃんはイチゴ牛乳を一口飲んでビシッと私に人差し指を立てた。


「真子は9年間もアタックし続けてたんだよ。彼氏だってとっくに真子の気持ち気付いてろうし、それでも何だかんだ今まで突き放す事なく、一緒だったんでしょ。だったら『ほぼ』つきあってたもんじゃん。だから普通のカップル基準の1週間じゃないわけ。それに真子自身そう悩んでるんだから、今解決しとかないとすぐ別れちゃうよ。少しの気持ちのズレが気がつけば取り返しのつかない溝になることもあるんだし」


「う、うん、わかった」


恋愛経験なんて少しも貯まっていない私には解らないけど、要はウカウカとシアワセオーラの余韻に浸っているとお別れイベントが発生してしまうから注意しろと言うことだろう。

しゅうちゃんに限って、でもしゅうちゃんカッコいいからなぁ。モテるんだろうなぁ。背も高いし腹筋割れてるし優しいしカッコイイし。そして料理も出来てしっかりしてて、今度またカルボナーラ作ってもらおっと。



「この娘、本当にわかってるのかなぁ」


「ま、シアワセそうならそれでいいんだけど」












休日。今日はしゅうちゃんとつきあい始めての初デート。

そして、作戦『アクアラヴァーズ』決行の日。

作戦内容は、今夜、大人の階段を登ること。

下準備はバッチリ。勝負下着も買ったし念のためのホテルも教えてもらった。誘い方も何パターンか伝授してもらい、何処からでもかかってこいやー状態。

さえちゃん、かなちゃん、ご協力ありがとう。真子は今日、がんばります。


「お、真子が時間ぴったりに来てる。珍し」


「しゅうちゃんに勝った〜。いぇ〜い」


曰く、いきなり態度が変わると逆効果らしい。しかし、このままではゴールインできない。

そこで、いつも通りでありつつ、変化を薄く入れていく。私の場合大人っぽさを間間に入れていく作戦が有効、と分析された。

大人っぽさとは? 要はフェロモンプンプン、というわけではなく大人の対応をすればいい、と言われた。てっきりフェロモンプンプンかと思って香水専門店の店員さんに「媚薬みたいな効果のある香水ありますか?」と尋ねて二人に大慌てで連行された。

ちなみに、店員さんは驚きつつも探してくれていた。


「ん?香水つけてるの?」


「うん。この前友達と一緒に買ったんだ」


横を歩いていたしゅうちゃんの顔が私の首もとに近づく。しゅうちゃんのつけている香水の匂いが届く。あんまり香水は詳しくない私が知っている香水、マリンブルー。しゅうちゃんの香水。


「ロゼ?わかんないや」


「へ?あぁ、香水?実は私もよくわかんなくて。友達に勧められて、いい香りだったし、思い切って買ってみたんだ。変だった?」


「いや、合ってると思うよ」


あ、いけない。顔がシアワセオーラでデレンとなるところだった。

しかし、しゅうちゃんかっこいいなぁ。これが私の彼氏なんだぁ。


街を歩いてから映画館へ。今話題のサスペンスホラーで3D映画。シリーズ4作品目で一応DVDとかで前シリーズは見終わっている。ホラーだったけど怖くなかった。音とか爆発とかの方がビックリしたし、おんなじタイミングで声を上げた時なんか、お互い見合ってクスクスと笑った。

映画の後はお買い物。荷物が大きくならないように注意しながらショッピング。恥ずかしいことに、あんなにアタックしていたのに、いざつきあって手を繋ごうとすると、止まってしまう。そう、今日まだ手すら繋いでいない。

落ち着け真子。焦るな。なに、いつものように掴んでニッコリするだけだろう。それに今日はその先の先にあるゴールまで突っ走る予定なんだぞ。

意を決してその片手に手を伸ばした瞬間、後ろからしゅうちゃんの名前を呼ぶ声が聞こえた。

振り替えると、綺麗な女の人がいた。









夏弥、そうしゅうちゃんはいった。多分、大学の知り合いなんだと思う。

大学生、少ししか年齢もかわらないのに、どうして、こう大きな壁みたいな差があるんだろう。


しゅうちゃんが夏弥と呼んでいた女性が私の方に気がついたら。こんにちわ、と言われたので軽くお辞儀はした。随分感じの悪い印象を与えてしまいそうだったが女の人は嫌な顔一つ見せなかった。


「秀次の妹?かわいいね」


「まぁそんなとこ」


しゅうちゃんは否定してくれなかった。そこからの会話は全く頭に入って来なかった。ただ彼女といってくれなかったことが、とても悔しかった。

いや、悲しかった。

気持ちの浮き沈みが激しいのは嫌だった。今日は、大人の対応をしたかったのに、もう出来そうにない。

日も少し沈み始めたものの、まだ早い。けど、今の私には留まるという選択肢が選べなかった。


「しゅうちゃん、私疲れた。どっかでひと休みしたい」


さっきの女性の姿はもうみあたらない、私はしゅうちゃんと街を歩いていた。

私が疲れたと、言うとしゅうちゃんは変わらない笑顔で座れる場所を探してくれた。



「これからしゅうちゃんの家に行かない?行きたい」


「俺ん家に着く頃には真っ暗になるだろ。だ〜め」


「いいよ、大丈夫。暗くなったら泊まればいいもん」


「子どもは暗くなったら帰るものだよ」


子ども、か。さしずめ他人からは仲のよい兄妹くらいにしか見えないんだろうなぁ。

しゅうちゃんも、あの夏弥っていう女性も、そこら辺をあるいている他人もみんな。

朝はあんなに楽しく躍っていた心がどっと暗くなっていくのを感じる。


いつまでも立ち止まったままの私に気がついたしゅうちゃんが声をかけてくれる。



私は俯いたまま。いつもは遠くにいても聴こえる声も聴こえない、聴きたくない。

あぁ、こういう子どもみたいな事ばっかしているから、ずっと子供扱いなんだ。

しょうがないね、本当に。でも、だからといってはいそうですかと気持ちを切り換えることなんて、私にはできない。

だって、私はまだ子供なんだから。必死に背伸びしているだけのお子ちゃまなんだから。



「しゅうちゃん、これからホテルいこ」


「なんでいきなりそうなる。一体どこでそんなこと――」


「私ね、ずっとしゅうちゃんのこと、好きだったんだよ」


脈絡のない私の言葉はどんどん出てくる。それと、そんな私の後ろ姿を冷めた目で観ているもう一人の私がいる。


「なんども告白して、いろいろ頑張って、勉強も、料理も、香水も、おしゃれも、髪型も、みんな!」


わかってる。これはただのワガママ。子供が欲しいものが手に入らないときにやるジタバタ。悪あがき。


「やっと付き合うことになって、本当に嬉しくって、楽しくって、でも、浮かれてたのは私だけだったんだね」


なんで、泣きそうになるのかな。この涙は悲しい? 悔しい? それとも――


「しゅうちゃん、やむを得なくオッケーしたんでしょ。断りきれなくなって。可哀想っておもった?子供の戯言だと勘違いしてた?」


「真子!!!」



怒鳴られた。キーンと私の鼓膜を揺らした怒鳴り声はそれまで聞いたことのない声だった。

俯いたままなのでしゅうちゃんの顔はわからない、わからなくていい、わかりたくない。





「別れよう、もういいよ、しゅうちゃん」





私の人生の絶頂期はこうして幕を閉じた。









「で、言うだけ言って逃げてきたと」


「いいじゃないですか〜、判りきった答えを訊いたら、それこそ引きこもりますよ〜」


「逃げ込んだ先がバイト先とは、もう哀しくてオジサン涙が出そう」


桂さんは、優しい言葉も慰めのセリフも元気をくれる気遣いも一切無かった。第一声が「仕事のジャマ」って何だよ!



あのまま家に帰っても空しいのでバイト先まで歩いてきた。足もいたいのに、どうしてこの人はこうも淡白なんだろう。


歩きながら泣くだけ泣いて、後悔もして、涙が渇れて目が痛くて、真っ赤な目って桂さんにバカにされて、人生の落とし穴に今はまってますっ気分。



桂さんが失恋をした私に優しくしてくれても、それはそれで気持ち悪いけどね。


今日の事を長々と遠回しに話して、アルバイト先には多大な迷惑をかけ、ようやく落ち着いた。



レジの棚にダランと凭れている私の前に、缶コーヒーが置かれた。

カコン、とスチールと棚がぶつかる音が妙に響いた。気がつくと私と桂さんだけだった。


「片山さんは?」


「後ろで休憩してる、不良女子高生。コレでも飲んでさっさと帰りなさい」


「桂さんがオゴリ?うわ、めずらし〜」


「人生の落とし穴に堕ちた祝だ、遠慮せずに受けとれ」


「その割には安い〜。あ、私この前出た新作のスイーツ食べたい」


「売り切れでした、はい残念。もう遅いから帰りなさい」


確かに子供にはいい加減帰るべき時間帯だ。母に怒やされる。

桂さんから貰った缶コーヒーはもう温く、手で握っても大丈夫だ。店内時計をみれば、思っていたよりも時間は経っていなかった。

上体を起こし、桂さんに挨拶をして店を出ようと一歩踏み出す。脳からの命令を体がようやく反応してくれた。


「人生の先輩として一言助言を与えてやる」


去り際に桂さんは不適な笑みを浮かべながら私に言った。


「世の中っていうのは自分中心に廻っているわけじゃない。森羅万象各々の集合思念によって成り立っている。しかし、目に見えるのは自分でしかないから、あたかも自分中心に廻っている様に錯覚してしまう。」


「それ、なんかキザっぽいですよ」


「オジサンは、たまにはカッコつけたくなるの」




桂さんのくれた缶コーヒーは、無糖のブラックコーヒーだった。苦かったけど、一気に飲んだ。








家に着くと、直ぐにお風呂に入って、ベットイン。

当たり前なんだけど、夜に寝て、起きてみれば朝になる。

その日は、いつもよりもずっと早く家を出た。それを見た母は父に交通安全祈願と書かれたお守りを何個も渡していた。失礼な。


同じようなやり取りは、学校でもあったが割合する。



とはいえ、早く学校について感じたことは静かだと言う点。それも数分も経てばちらほらと登校する生徒も増えるので直ぐに終わる。


あとは、何時ものうるさい教室に戻るだけだ。





さえちゃんやかなちゃんからは、色々と聴かれ、まるで事情聴取を受ける被疑者の様であった。



上手く説明出来ず、ちどろもどろになってしまったが、まぁ結果と感情は伝えきれたと思う。

そっか、と二人ともそれからは聴いてこなかった。

さえちゃんは頭を撫でて、かなちゃんは胸に引っ張ってチワワを扱うように抱き締めてくれた。


笑えた、笑った、嬉しかった。




遊ぼっか、と放課後に誘ってくれたが断った。二人に気を使われてしまったがしかたがない。

流石に、乗り気に成れなかった。

申し訳ないと思いながらも独り帰り路を歩いていた。いや、無性に独りになりたいときってあるじゃない? 独りだからといって特に何もせずに帰るんだけど。


強いて言うなら、不満を口に出しながら、所謂独り言ウォーキング。


「はぁ、今日は家にかえって、あ、明日はバイトじゃん。忘れてた〜、今日やっぱり無理してでも遊んだ方がよかったかな」


「そういえば、今度からかなちゃんに合コンの事相談しないとな〜。今まで断ってたし」



「しゅうちゃんもバカだよね〜。こんな美少女が何年も言い寄っているのに、何にも感じないなんて」



「バカだね。うん、バカなんだよきっと」



我ながら、痛々しい。フラれて、ずっと好きだった人をバカバカと言って。



そして、バカバカ言った張本人は、なんと人様の玄関に腰をかけていた。

ビックリ、衝撃的にビックリだよ。

何せ、昨日の今日だよ。

立ち止まる私は、そこから一歩も動けない。逃げろ、走れ、観るな、色々な警告が私に命令するも動かない。



頭と体が右往左往している内にしゅうちゃんがこちらに気がついた。

あれ、心なしか、不機嫌そう。


無言で歩いてくるし、いや何が反応を示して。こっちは動けないんだから。パニクっているんだから。


一歩、また一歩と近づいてくる。私は動けないから距離はどんどん狭まってくる。

三歩の距離、二歩の距離、一歩の距離、手を伸ばせば届く距離、そして




「なんで今日に限って真面目に登校してるんだよ。しかも言うだけ言ってトンズラするわ、携帯にかけても出ないわ、後味悪いわ、眠いわ、寒いわ」



冷たいしゅうちゃんの体が私を抱きしめる。強引に、珍しく荒々しく引寄せられた。もう訳がわからない。

状況を把握する前に、文句と共に頭をグリグリと擦られた。

もうされるがまま、なされるまま。

グリグリと文句の波状攻撃が終わる頃にはもう脳内処理能力がオーバーヒートしてフラフラになっていた。そしてまたしゅうちゃんの胸元へ。



「なんとか言え、黙りか?」



「頭がパニクって、なにがなんだかわかんない」



「んじゃいいや。そのまま聞いとけ」



しゅうちゃんの手が私の頭に触れる。ポン、と子をあやすように優しく。




「お前の事をいつまでも子供扱いしていた事は確かだ。付き合いだしても今までみたいに扱っていたのも確かだ。ずっと妹みたいに接してたし、今更どう変わればいいのかわかんなかったからな。でもな、お前の告白に対しては、きちんと考えて答えた。子供とか、幼なじみとか、面倒とか、そういうのは全部取っ払って、独りの女性として考えて、答えたんだよ」




しゅうちゃんはきちんと考えていた、私をそう見てくれていた。

それが、とても嬉しかった。涙が出そうなくらい、嬉しかった。同情やなげやりな気持ちの上の関係じゃなかった。

感傷に浸っていた私だったが、ガシッと頭を捕まれ、グイッとしゅうちゃんの顔の前まで強引に持ってかれた。しゅうちゃんはまだ不機嫌そうだ。



「なのにお前は人様の気なんてまるで察しないで、他人に媚びうるわ妙に大人振るわ危なっかしいわワケわかんないことぬかすわ要らなく誘ってくるわ勘違いするわ、てんで子供染みた行動で振り回しやがって、なにか言うことは?」



うわ、怖い。こんなしゅうちゃん初めてみる。顔も近いし、怖いし、あぁ、謝んなきゃだめかなぁとか冷や汗をかきながら思っていた。



「―――別れたくないです――――」



出てきた言葉は全然違っていた。少し震えながらのこの言葉がどこから出てきたのか、私にも判らない。本当に、すっと出てきた言葉だった。





しゅうちゃんは、三秒くらい唖然とした後、ため息をつきつつ「よろしい」と微笑んだ。久しぶりにみた笑顔だった。






さて、ここからは二人だけの秘密。私がどんな行動に出て、しゅうちゃんがどうしたのか。

お約束な展開だけど、今の私はそれでいいと思える。だって私はまだ子供だもの。

しゅうちゃんの彼女ではあるけどね。





うん、ちょっと強引だったかな?

流れは気に入っていたのですが、上手く伝わることができたかが少し、いやとても不安です。


感想など、ありましたらどんどんおねがいしますね。

それでは、読んでいただきまして、ありがとうございました。


またの機会にお会い出来ましたら。

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