日の光の下で(4)
「そ、綜ちゃん」
その視線にドギマギしてしまう。
「好きって……俺を男としてってことか?」
綜一狼の言葉に楓は頷く。
「静揮や聖よりもか?」
「そりゃあ、静ちゃんも聖も好きよ。だけど、綜ちゃんとは違う好きだから。うまく言えないけど……」
言葉が途中で途切れてしまう。
言葉を口の中でモゴモゴと転がす。
「楓、俺は……」
「い、以上! 私の気持ちでしたっ。別に返事がほしいとかそういうのじゃないから。綜ちゃんには透子さんがいて、見込みがないことくらい分かってるし、私じゃあ綜ちゃんとは釣り合わないだろうし……」
口を開きかけた綜一狼を楓の言葉が遮る。
答えを聞くのが恐くて、言葉が次から次へとあふれ出す。
「うるさいっ」
そんな楓を、綜一狼は唐突に強く抱きしめる。
驚いて楓は言葉を失くす。
最初は驚き身を硬くしていた楓だったが、徐々に体から力が抜けていく。
綜一狼の温もりを感じながら瞳を閉じる。
「泣きじゃくる楓に『うるさいっ』て、あの時もここで怒鳴ったよな」
徐に綜一狼は口を開く。
その場面を思い出したのか、綜一狼は楓を抱きしめたまま小さく笑う。
「うん。思い出したよ。でも、今と逆だったよね。私が綜ちゃんに抱きついてた」
突然泣き出してしまった綜一狼を慰めようと、自分なりにけっこう必死だった。
「あれは、母さんが死んですぐのことだった。俺の知らない間に話がまとまって、嘉神家に引き取られて、けど母さんはきっと迎えにきてくれる。そう思ってた。なのに、もう死んでるんだって知って、一人ぼっちなんだって思ったら無性に寂しくて腹が立って、授業をサボってここに来たんだ」
「そうだったんだ」
冷たく見えたのは、孤独だったから。
拒絶していたのは、傷ついていたから。
「誰にも会いたくない。そう思ったのに、楓はここにいた。ニコニコ笑って幸せそうな顔をしてさ」
屈託なく微笑むその姿が無性に腹が立った。
八つ当たりだってことは分かっていた。
けれど、その幸せそうな笑みが気に食わなくて、目の前から消えてほしくて冷たくした。すべてが不幸になればいい。
投げやりに、綜一狼は本気でそう思った。
「なのに、楓は俺を抱きしめてくれた。それが温かくて優しくて、俺は一人ぼっちじゃないんだって、そう思った」
見ず知らずの自分の悲しみを引き受けるという少女。
ただ一生懸命に、自分を元気付けようとがんばるその姿が、本当の天使に見えた。
「俺はあの瞬間から、楓のことがずっと好きだったんだ。もちろん今でも変わってない」
その言葉に、楓は綜一狼の顔を見上げる。
「でも綜ちゃんは透子さんが……」
「だから何度も言うが、それはお前の勘違いだ」
「だ、だって、キスだってしてたじゃない」
そう。生徒会室で、唇を合わせていた二人の姿を、楓ははっきりと見たのだ。
「あれは……悪かった。でも誤解するな。本当に特別な感情があったからとか、そういうんじゃないから。ただ……」
言いかけた綜一狼は、そこで言葉を止めた。