日の光の下で(3)
透子のところから戻ってみると、ちょうど静揮が手当てをしてもらっているところだった。
「あれ? 綜ちゃんは?」
辺りを見回すが、そこに綜一狼の姿は無い。
「そういえばいないわね」
ルナが首を傾げる。
「姫さん」
守屋が言葉をかける。
「ん?」
「綜一狼から伝言。空中庭園に来てくれってさ」
「あ、うん。分かったわ」
キョトンとしつつその言葉に頷くと、綜一狼の元へと向かった。
空中庭園に行くと、空の涙を隠していた桜の木に寄りかかって目を閉じて座る、綜一狼の姿が目に入る。
「綜ちゃん」
楓はそっと綜一狼に声をかける。
瞳を開け、楓の姿を見止めた綜一狼は優しく微笑み、楓に手招きをする。
それに応じて、楓は綜一狼の隣りに並び腰を降ろす。太陽の光を受けてキラキラと光る木々と、温かな風が優しい。
葉の間から見える空の青。
それは空の涙の色に似ている。
「最後の審判……」
「え?」
その場に身を任せていた楓は、綜一狼の漏らした呟きに我に返る。
「最後の審判を受ける気分だ」
首を傾げる楓に向かって、綜一狼は今度ははっきりと言葉を吐く。
「えっと?」
言葉は聞こえたものの、楓はその意味が分からず困惑する。
「楓は、俺のあの能力を見て、どう思った?」
「能力?」
七色に光る翼や風を操る力。
あの時の綜一狼の姿を、思い浮かべる。
夜狼という一族の特殊能力。
はっきり言えば驚いた。
といっても、驚くことだらけで、最後の方はもう、馴れて何を見ても驚かなくなっていたが。
「それは驚いたけど……すごく綺麗だった。ていうのが感想、かな?」
楓はごく素直に考えを口に出す。
「綺麗?」
今度は綜一狼が首を傾げる番だ。
楓の予想外の言葉に、思わず聞き返してしまう。
「うん。あの時、綜ちゃんの姿を見て、本当の天使だってそう思ったのよ」
「気持ち悪いとか、そういうことは思わないのか?」
綜一狼は目を丸くして楓を見る。
「え? 何で?」
七色の羽の天使。
本当にすごく綺麗だった。
あれを見て「気持ち悪い」などといえる人はいないだろう。
「……」
楓の答えに綜一狼は立ち上がり、大木を見上げる。
「まいった。本当にまいったな」
「綜ちゃん?」
額を押さえ込む綜一狼。
言葉の意味が分からず、楓も立ち上がり、綜一狼の顔を覗き込む。
「能力がバレたら、楓に嫌われると思ったんだ。あんな普通じゃない能力。どう考えても不気味じゃないか」
楓を見て綜一狼は苦笑する。
「そんなことないよっ。そりゃあ驚いたけど、不気味だなんて思わない。例え綜ちゃんが、不思議な能力を持っていても、夜狼でも私はその……」
いざとなると、『好き』という言葉が出てこない。
自分の気持ちを自覚した今、『好き』という言葉はものすごく特別な意味があるもので、前のようにすんなりとは出てこないのだ。
けれど言わなくちゃならない。
絶対に言うと決めたのだ。もう逃げないと。
「あのね、私は綜ちゃんのことが好きなのっ。多分、もうずっと前から」
楓は一息で言い切る。
言ってしまったはいいが、まともに綜一狼を見ることが出来ず、そのまま俯いてしまう。
顔がほてり出しているのが自分でも分かる。
「……」
反応がない。
長い沈黙。
「あの?」
堪らなくなって、楓は恐る恐る綜一狼を見る。
綜一狼はジッと楓の姿を見つめていた。




