日の光の下で(1)
「……とりあえず、終わった……のか?」
静まり返ったその場で、静揮は詰めていた息を吐き出し呟く。
「とりあえず……な」
綜一狼がそれに答えるかのように言う。
「あーあ。これで目をつけられちまったぜ」
続けて守屋が頭の上で手を組み、そんなぼやきを吐く。
「仕方がないだろ。いつまでも隠れている訳にはいかないんだ。いつかは、決着をつけるべき日が来る」
聖が消えた方角を見据えて、綜一狼は静かに言い放つ。
「これでよかったのかな?」
結局、『ヒジリ』は眠りについてしまった。
空の涙がなくなっても、聖は盗賊をやめないと言った。
振り出しに戻っただけのような気もする。
むしろ、しっかり目をつけられた分、悪くなったような気もする。
「よかったんだよ。十分やることはやった」
落ち込み気味の楓に、綜一狼は優しく言う。
「楓のおかげで、ほんの少しの間だけど、あの人に会えたもの。感謝してるわ」
ルナも微笑みを浮かべる。
「そんな。私は何もしてないよ。でも、ルナとヒジリって、どういう関係なの?」
ルナがヒジリを慕っていることは分かった。
だが、その関係がいまいちわからない。
「ヒジリは、私のすべて。ヒジリがいるから、私は生きていられるの」
ルナは艶やかに微笑む。
「私、夜狼なのに、特殊能力がないの。それって、すごく珍しくて、不名誉なことなのよ。仲間のほとんどから蔑まれて無視されて……。だけど、群れを抜ければ殺される。だから、小さい頃はただ息を潜めて生きてたの」
「あそこってそういうとこだよな。自分たちのプライドが無駄に高いから、下ってみたらとことん見下す。陰険集団」
守屋は吐き捨てるように言う。
「でもね、ヒジリに出会ったの。彼は、そんな私を庇護してくれて、親にさえ見捨てられた私を側に置いて、生きる術を学ばせてくれた」
「そっか。そうだったんだ」
敬愛はいつしか恋心に変わった。
ルナの恋は、きっと茨の道だ。
それでもいつか結ばれてほしい。
そう願わずにはいられない。
「本当に、楓には感謝してる。……今更だけど、騙していてごめんなさい」
ルナは、楓に向かって深く頭を垂れる。
「そんなことしないでよ。私、ルナのこと大好きだよ。だから、これからも友達でいてね」
「楓~。私も大好き! 私、暫くはここに留まるわ。どうやら、ここにいた方が、聖に会えるみたいだし。私、まだあきらめないから。ネバーギブアップよねっ」
いつもの調子でにっこり微笑み、ルナはウィンクをしてみせる。
「うんっ。そうだよね。まだ、あきらめるのは早いよね」
ほんの少しだけど、聖も分かってくれた。
時間はかかるかもしれないが、ここで諦めるのはまだ早い。
ルナの言葉で楓は元気を取り戻す。
「じゃあ、話が付いたところで、傷の手当てだな」
「そうだった。二人とも、早く手当てをしなきゃ」
綜一狼と静揮がボロボロだということを思い出す。
「違うだろ。手当てをするのは楓。女の子の体に傷があるなんて大変だ」
「え? 私は平気……」
「だめだ。ほら、行くぞ」
そう言うと、静揮と綜一狼は有無を言わさず楓を引っ張っていく。
「兄馬鹿」
「過保護」
そんな静揮と綜一狼の様子を見て、守屋とルナは呆れたように言ったのだった。