君への想い(3)
だが、それは楓に当たることはなかった。
「チッ」
聖は小さく舌打ちをする。
「卑怯にもほどがある。よりにもよって、楓を狙うなんてよっ」
「静ちゃん」
間一髪、楓を横に押しやったのは静揮だった。
「怪我はないか?」
「それより、静ちゃんの方こそっ」
先ほどまで気を失ってたというのに、こんな早業どうやってこなしたのだろう?
なにせ、静揮がいる位置から楓のところまでは、十メートル以上ある。
走ったとしても、今のタイミングじゃ、間に合わなかったはずだ。
楓はただ目を瞬く。
「俺の存在をお忘れではありませんか? お姫様」
隣りには、ちゃっかりと守屋の姿がある。
「あ……」
確か、守屋の特殊能力は瞬間移動だ。
「俺が南条のお坊ちゃんを飛ばしてやったんだよ。すけぇんだぜ、こいつ。姫さんの悲鳴聞いた途端に、目を覚ましたと思ったら、『飛ばせっ』とか言ってさ。ホントに、こいつは人間かって感じだ」
「当たり前だ。楓が助けを求めてるっていうのに、悠長に寝ていられるか!」
「……最大のピンチの時に寝てたけどな」
ガンッ。
ボソリと呟いた守屋の頭を、静揮は殴りつける。
「もう大丈夫だからな。楓」
痛みで悶えている守屋を横目に、静揮は楓に微笑みかける。
「ありがとう。静ちゃん」
楓も笑みを向ける。
「そういうわけだ。綜一狼。楓は俺が守る。お前は心置きなくやれ」
「ああ」
静揮の言葉に綜一狼が頷く。
「聖。戦っているのは俺のはずだが?」
綜一狼は聖へと向き直り、声を低くする。
楓への度重なる攻撃。
綜一狼の怒りはすでに抑えがたいものになっている。
怒りが綜一狼を突き動かす。
(どうしよう。このままで本当にいいの?)
楓は、綜一狼と聖の姿見ながら自問する。
このままでは、どちらかが倒れるまで戦うことになってしまう。
どちらが勝ったとしても、楓はちっとも嬉しくないし、それが何かの解決になるとも思えない。
もうここに空の涙はないのだ。
争う必要など何もないというのに。
一度落ち着くために、深呼吸をしてから、楓はスクリと立ち上がる。
「二人を止めなくちゃ」
「何言ってんだよ。聖はお前を殺そうとした奴だぞ。大丈夫だ。綜一狼なら絶対に勝つから」
今にも駆け出しそうな楓を、静揮は慌てて引き止める。
「そうじゃなくて……」
二人には戦ってほしくない。
それは、ルナも同じ思いのはずだ。
両手を強く握り締め、聖の姿を一心に見つめるその姿に、胸が痛くなる。
「やっぱり止めなきゃだめだ」
引き止める静揮の手を振り解く。
「無茶だ。楓」
「さっきので無理だっていうのは、十分分かったはずだろ? これ以上、どうしようって言うんだよ」
静揮の困ったような声と、守屋の呆れたような言葉が楓の耳に届く。
「分からないけど……。こんなの絶対よくないよ」
そう言った直後だった。
バンッ。
聖の体が宙を舞い、フェンスに体を強く打ち付けられる姿が、目に映った。