君への想い(2)
綜一狼の背中に羽がある。
光を受けて、七色に輝く大きく美しい羽。
「綜ちゃん、その羽は……」
「話は後だ。しっかり捕まっていろ」
綜一狼はあやふやに笑い、楓の言葉を制す。
楓を抱きしめたまま、上へと上がっていく。
アッと言う間に、屋上のフェンスを飛び越え、元の屋上へと降り立つ。
「あんたはいつもそうだ。ギリギリにならないと動かない。かっこうつけなんだよな」
不満そうな守屋の声。
「別に格好をつけたつもりはないけどな」
その場に楓を降ろすと、見る見るうちに、綜一狼から光の羽が消えていく。
「楓。ここでジッとしてろよ」
その場に呆気に取られ座り込んでいる楓に向かって、綜一狼は温かな眼差しを向ける。
「綜ちゃんは?」
綜一狼を見上げて、楓は慌てて言葉をかける。
「決まっているだろ。あいつを、このままにしておけない」
その視線の先には聖の姿がある。
綜一狼と、相変わらず冷え切った聖の瞳が交わる。
「お前に、あんな特殊能力があったとはな。まったく。しぶとい奴らだ」
小さなため息を漏らす。
「お前だけは絶対に許さない」
その言葉と共に、綜一狼は聖に向き直る。
「許さない? 笑わせる。お前に何が出来る」
「少なくとも、お前の命をとる事くらいは出来る」
聖の嘲りの言葉に答えて、綜一狼はその場で一度瞳を閉じる。
すると、綜一狼の背にまたも光の翼が現れる。
バッ。
「!?」
綜一狼が瞳を開けると同時に、光の翼の羽は広がる。
翼を一度はためかせ聖を睨んだその時、その場の風の流れが変わった。
正確には、聖の周りの風が変わったのだ。
風は一度大きく円を描き、上へと昇り聖へと一気に落ちる。
普通では考えられないほどの風圧。
聖はその重みに耐え切れず、その場に膝を立てる。
風の暴走が収まったその後には、目を見開き、荒い息をする聖の姿があった。
額からは嫌な汗が滲んでいる。
「俺も特殊能力は一つじゃない。攻撃の仕方くらい心得ている」
顔色一つ変えることなく、綜一狼はその場にうずくまる様に座り込んでいる聖を見下す。
「なるほどな。それじゃあ、この攻撃はどうする?」
そう言って聖は懐から、いくつかの刃を取り出す。
石を鋭く磨き上げたようなそれは小さいクナイに似ている。
スピードが加われば、十分の凶器になる。
シュッ。
それを聖は、綜一狼から外れた位置へと投げる。
「なっ」
綜一狼が小さく声を上げる。
それは綜一狼を標的にしたものではなかった。
離れた位置にいた、楓へと向けられていたのだ。
「きゃあっ」
楓は避けきることが出来ず、なす統べなく、その場で硬直した。