君への想い(1)
「姫さん……」
守屋は目を見開いたまま、呆然としている。
「いやー!」
叫び、その場に崩れ落ちるルナ。
助けられなかったという悔恨と絶望感が支配する。
「楓ッ」
その中で動いたのは綜一狼だった。
フェンスを軽々と飛び越え、何の躊躇もなく飛び降りる。
「馬鹿な男だ」
その光景に、聖ははき捨てるように言い放った。
落ちる。
楓はその瞬間に思った。
考えていたよりずっと冷静な自分に驚く。
落ちるかもとヒヤヒヤしている時よりも、落ちているという結果が出ている方が安心できるらしい。 結果的にどちらも同じ結末なのに、おかしな感じだった。
(言いたかったな。綜ちゃんに……好きだって)
見込みの無い恋ではあったけど自分の気持ちを伝えておきたかった。
でもこんな結末になるのら、言わなくて正解だったのかもしれないとも思う。
(でも、もう少しだけ一緒にいたかった)
自分のしたことに後悔はない。
けれど、静揮とルナとそれから綜一狼。
その他の大好きな人たち。
もっと一緒にいたかった。
死ニタクナイ。
「綜……ちゃん……」
最後になるだろう言葉は大好きな人の名前。
声がその人に届けばいいのに。そんなことを思う。
(あ……)
思った瞬間に、楓は天使を見た。
光の羽を付けた綺麗な天使。
伸ばされた手が楓の手を掴む。
引き戻され抱きしめられる。
いつか感じた温かな気持ち。
「呼んでくれてよかった。楓の声が俺に力を与えてくれる」
天使は言う。
いつもと変わらない優しい笑顔で。
「私……私ね。綜ちゃんが好き」
夢でも幻でも構わない。
今言わなければ、もう絶対に言えない。
楓は光を纏った綜一狼に、唐突に言い放つ。
そんな楓の姿に驚き目を見開く綜一狼。
「俺もだよ」
けれど次の瞬間には、今までに見せたことの無いような無邪気な微笑みを浮かべ答える。
その答えに楓もフワリと微笑んだ。
「最期に言えてよかった」
きっとこれは神様がくれたご褒美だ。
あまりにも強く思ったから、綜一狼が天使になってきてくれた。
自分の気持ちも言えた。
それだけで十分だ。
「馬鹿言えよ。最期の訳ないだろ」
「え?」
だが、天使が言ったその言葉に、楓は目が点になる。
「言ったろ? 決着をつけて、未来に進むんだ」
その言葉に、夢心地から一気に現実に引き戻される。
「最期じゃない。始まりだよ」
凛としたその声。
「だって、これは夢じゃ……」
「そんなわけあるか」
「え、えぇっ!?」
その一言で、すべてが現実味を帯びていく。
抱きしめられた力強い腕も、空中で止まっているという不自然な状態も、光の羽を纏った綜一狼の姿もすべてが現実。
そのことにやっと気が付き、楓は言葉を失くし、綜一狼を見つめた。