空の涙(4)
キラキラと光る真っ青なその色は、確かに空を連想させる。
「綺麗……」
「にしても、空の涙がまさか、こんなただの青い砂みたいなもんだとはな。もっと宝石っぽいもんかと思ってたけど」
空の涙を繁々と見ながら、静輝はそう感想を述べる。
「夜狼にとっては、空の涙に比べれば、宝石なんてただの石ころみたいなものだ」
自分たちの能力を維持するために、必要不可欠なもの。
これを持ち出すために、自分の母親を含め、何人が命を落としたか。
綜一狼はきつく拳を握りしめる。
「綜ちゃん」
その拳に、楓は気遣わしげにそっと触れる。
温かく柔らかな温もり。
「あぁ。大丈夫だ」
今は感傷に浸っておる場合ではない。
綜一狼は、楓を安心させるように、落ち着いた声でそう答える。
楓はほっと息を吐き出し、フワフワとした笑みを浮かべる。
愛おしい気持ちがあふれ出し、綜一狼からも自然と笑みがこぼれる。
「……で、コレをどうするんだ?」
そんな二人の様子を、静輝は何ともいえない表情で見ていたが、おもむろにそう言葉を吐く。
「俺もぜひ聞きたいな」
突然聞こえてきた、もう一人のその声に、三人は一斉に振り返る。
「聖」
その姿を見て楓は言葉を漏らす。
皮肉な笑みを浮かべ、自分を見ているその瞳は冷たい。
楓は唇をかみ締める。
今目の前にいるのは、自分の知っている『ヒジリ』ではない。
見た瞬間に、楓にはそれが分かった。
「俺から逃げ切れると思ったのか。言っただろう? 逃がしはしないと」
冷たい声が降り注ぐ。
「いまいち状況は分かんねーけど、楓に手を出すのは俺が許さねぇっ」
スッと楓の前に立ち静揮は聖を睨む。
「静ちゃん、無茶だよっ」
緊迫した空気を感じ取り、楓は思わず静揮の制服の袖を握り締める。
綜一狼ですら歯が立たなかった相手。
いくら静揮でも、綜一狼の二の舞になることは目に見えている。
「……」
静揮は後ろを振り返り、楓を見下ろすとニッと笑いかけ、いつものように優しく楓の頭に触れると、そのまま腕を回し抱きすくめる。
「!」
「なっ」
綜一狼が声にならない声を発し、楓もそのまま硬直した。