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空の涙(1)


 地下から抜け出ると、その場には静揮と守屋。それにルナが立っていた。

 もうすでに朝日は昇り始めていて、ずっと地下にいた楓は、あまりの眩しさに目を細める。


「楓っ。無事………………」


 言いかけたまま、静揮は固まってしまった。

 なにせ、楓の格好といったら、シャツのボタンが見事になくなり、ブラジャーがチラリと見えているような状態。

 その上、体中小さな傷や打撲の跡、とても無事などと言える姿じゃない。


「ありゃま。南条のお坊ちゃん固まっちまったよ。何があったんだ?」


 じっくりと楓のセクシー(?)な姿を見て、守屋は呑気な声で言う。


「そ、そうよっ。何があったの! まさか、嘉神に襲われたの!!」


 守屋を押しのけて、ルナが見当はずれな解釈をする。


「ま、まさか、てめぇっ! いきなり『楓が呼んでる』とか言って、消えたかと思ったら、か、楓に無体なことを……」


 ルナの言葉に我に返り、静揮は今にも殴りかからんばかりの勢いで、綜一狼に詰め寄る。

 一応、綜一狼も傷だらけなのだが、楓の変わり果てた姿に、すっかり血が上っている静揮には見えていない。


「ち、違うの! これは聖に……で、でも、何にもされてないから平気っ」


 楓は慌てて二人の間に割って入る。

 『聖』という単語に、更に表情を険しくした静揮を見て、言葉を付け足す。


「どういうことなんだよ。一体っ」


 頭をかきむしりながら、静揮は苛立たしげに言葉を吐き出す。


「えっと。その色々あって」

「色々ってなあに?」


 あまりにもたくさんのことがありすぎて、うまく説明できず楓は言葉を濁すが、ルナは瞳をキラキラとさせて楓に詰め寄る。


「ん? そういえば、どうしてルナがここにいるの?」


 その場でハタッと気が付く。

 ルナとは、地下に行く前に別れてそれっきりだったはずだ。


「えーと」


 その問いに、ルナはあらぬ方角を見る。


「地下での悲鳴はこの女だったんだよ。人騒がせこの上ない」


 ルナの代わりにそう答えたのは守屋だ。

 ルナをジロリと睨み、ワザとらしいため息を付く。


「だって! 大きなネズミが私の足に乗ったのよっ。すごく気持ち悪くてつい、あんな声が……」


 最初は意気込んで、けれど楓の姿をチラリと見て、その声は段々小さくなっていく。


「なぁんだ。そうだったんだ」


 ことの真相に、楓は思わずクスリと小さく笑う。


「今は時間がない。話は後だ。行くぞ、楓」


 そういいながら綜一狼は、自分の着ていた上着を楓に羽織らせる。


「あ。う、うんっ」


 こんなところで和んでいる場合ではない。

 綜一狼は楓の手を取ると、そのまままたも走り出す。

 もちろん向かう場所は空中庭園だ。


「待てよっ。俺も行く」


 その後を静揮が慌てて追いかける。


「あなたは行かないの?」


 後に残った守屋にルナは言葉をかける。


「あぁ。うーん。あんまり、姫さんには関わるなって言われてるしなー。あんたは?」

「もちろん行くわよ。だって何だか楽しそうだし」


 そう言うと、妙にウキウキした様子でルナも後を追う。


「物好きな連中だぜ。……つっても、俺が行かないわけにはいかないよな」


 もうすでに姿の見えない四人の後を、ゆったりとした足取りで追う守屋だった。


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