表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/91

それは突然に(3)

 学園は外から見ても大きいが、中はもっと広くその上複雑になっている。

 クラスの数は普通の高校のザッと三倍。

 特別教室もそれに合わせてそれなりの数があり、上は十階まであり地下室もある。

 ただし地下室は立ち入り禁止となっており、その広さを把握しているものは少ないという。

 校舎は大きく三つに別けられており、教室は東棟と西棟とあり、東西の棟の真ん中が両棟共通の特別教室となっている。

 

 楓と綜一狼は共に東棟の教室だ。


「そういえば、楓のクラスに転校生が来るらしいぞ」


 東棟の校舎へと入り階段に差し掛かったとき、何気なしに綜一狼が口を開いた。


「転校生?」

「ああ。なんでも、稔川学園のイタリアにある姉妹校から、急きょ女子生徒が一名やってくるんだそうだ」

「そうなんだぁ。女の子か」

「ああ。ま、女子なら安全でいいんだが」


 一人心地で綜一狼は呟く。

 これが男子生徒であるならば、楓にちょっかいを出すかもしれないという心配が出てくる。

 そのために、それ相応の対応も考えたのだが、女子ならばとりあえず安全である。

 と、いうのが綜一狼の考えだ。

 本人はまったく気が付いていないが、楓は案外モテる。

 面倒見がよく素直なその性格が、非常に男子生徒に受けがいいのである。

 だが、楓に近付く男は有無を言わさず、綜一狼が排除しているし、当の本人は人一倍鈍い。

 そのため楓自身、自分がモテるなど露ほども思ってはいない。


「安全? 男の人だと危険なの?」


 などと、間の抜けたことを言っている。


「ああ。危険だ」


 楓のボケた発言に、綜一狼は大真面目な顔で答える。


「うーん。そうなのか」


 まあ、確かに外国は物騒だとよく言うし、多少は危険なのかも知れない・・・・・・などというこで、楓は納得していたりする。

 これが冗談ではなく真面目だというのだから、ある意味尊敬ものである。


「おはよう」


 階段を上りきったところに、見慣れた男が立っていた。


 白いシャツに柄物の紺ネクタイ。背はさほど高くなく楓より四、五センチ高いくらいのもので、綜一狼よりも十センチ以上は低い。

 今時古臭い丸めがねと、口元の髭の濃い剃り残しが、その男をひどくやぼったく見せている。

 ガチガチに固めた髪の毛もまた、三十そこそこの歳のはずであるその男の年齢を、十歳は老けて見せていた。


「おはようございます、早山(はやま)先生」


 綜一狼は軽く会釈をし、即座に挨拶を返す。楓もその後に続く。

 早山は数学の教師で、生徒会の補佐的役割をこなしている教師である。

 生徒会長である綜一狼はもちろん、楓もそれなりに面識があり気心の知れた教師だ。


「どうしたんですか? 珍しいですね、こんなところでお会いするなんて」


 楓は不思議そうに早山を見る。

 と言うのも、早山は東棟とは反対の西棟のクラスを受け持っているからだ。職員室も二手に別れているため、東西に別れた教師が、反対の棟に足を運ぶことは滅多にない。


「一緒に登校かい? 君たちは本当に仲がいいんだね」


 楓の問いに答えることなく、早山は呟くように言う。


 しかし、その声はどことなく間の抜けたようであり、二人を見ているはずの目もどこか虚ろだった。 声を出し言葉を吐いたものの、それはまるで機械が言葉を暗唱するような無機質な響きがある。何かがおかしい。

 楓は早山の顔を見上げる。その顔は笑ってはいたが、まるで能面であるかのように、薄っぺらで感情が出ていなかった。


 楓はゾッと、背筋が寒くなるのを感じた。

 いつも見知っているはずの目の前の人物が、得たいのしれない、何か別のものに変化してしまった。 そんな感覚だ。


「あの、家が隣同士ですから」


 しかし楓はそれを振り払おうと、努めて明るい声でそう答える。


「そうか」


 早山の虚ろな目が一瞬光りを見出したかのように輝いた気がした。

 しかしそれは正気なものではなく、明らかな狂気の輝きだった。


「楓、危ないっ!」


 楓がそれを認識した瞬間に、綜一狼の鋭い声が楓の耳に飛び込んできた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ