表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/91

記憶の欠片(3)


 だが、やっとの思いでたどり着いたそこを見て、愕然とした。


「出口じゃないの?」


 その場に着いた時、よろけて楓は思わずその場に座り込みそうになる。

 目の前にあるのは、円形の広い広場。

 そこを囲うように壁に蝋燭が灯っている。

 中央の壁には大きな十字架。

 入り口から壁の十字架まで、一直線に、赤い絨毯が敷かれている。

 古く崩れ去ってしまったのか、それ以外は何もない。


(あんまりだよ)


 歩き通しで、足は鉛のように重く、今までにないほどに疲れている。

 なのに、たどり付いた場所は行き止まり。

 まったくの一本道だったから、安心していたのに。

 楓はグルリとその部屋を見渡す。

 それにしても、何か違和感がある。

 何かがおかしいと思う。

 それが何なのか、楓はジッと考え込む。


(そっか)


 蝋燭だ。

 この部屋を照らしている明かり。

 一体、誰が付けたものなのか。

 電気とは違うのだ。

 蝋燭が独りでにつく訳がない。

 誰かが居たのだ。

 蝋燭の長さからいって、そんな時間は経っていないはずだ。


「ここまで誰にも会わなかったのにな」


 小さくため息を付いて、ゆっくりと壁に架かっている十字架に歩み寄る。

 近くで見ると、十字架はひどく傷付いていた。

 それも、ワザと何か鋭利な刃物で傷を付けたかのように、いくつもの切り傷が無数にある。


「それは、神に仇名す者たちの忘れ形見だ」


 十字架に触れようとした時、聞こえたその声に振り向く。


「あ、あなた」


 声が上ずる。

 蝋燭の明かりに照らし出され姿を現したのは聖だった。

 悠然とした笑みを携えて、楓の姿を捉えている。

 思わぬ相手に楓はただ呆然とする。


「まったく、俺はあの女にお前を連れてくるよう、暗示をかけたつもりだったんだが。まさか、負の感情が勝って、お前を殺そうとするとは。浅ましいことだ」

「殺そうとって……まさかそれって透子さんのこと?」


 聖の漏らした言葉に楓はハッとする。


「ああ。確かそんな名前だったか」


 楓の問いに、聖は気のない返事を返す。


「あれはあなたの仕業なの? それじゃあ、もしかして早山先生の時も……」


 透子の時も早山の時も同じ状態だった。

 早山は自分のしたことを覚えていないと言う。

 もし暗示をかけられていたなら、あるいはそうなのかもしれない。


「そうだ。もっともあの男の場合、役割はちゃんと果たしてくれたがな。学園内の見取りからセキュリティ管理のシステム。生徒の名簿。すべての情報を持ち出してくれた。嘉神綜一狼の命を取るようにとも命じたが、まあそれは、大した期待もしていなかったがな」

「そんなっ」


 まるで何でもないことのように、言葉を吐き出す聖の様子に楓は深い憤りを感じる。


「感情の負の部分を操り自我を支配する。羊の群れに狼が入り込めばすぐに見つかるが、羊の群れに羊が入っても分からない。そう思わないか?」

「あなたは一体誰?」


 混乱する楓の様子に聖は小さく笑う。

 笑う聖の姿にドキリとする。

 何て冷たい笑い方をする人だろうと思う。


 違ウ。


 訳の分からない強い拒絶感。

 小さく胸が疼くのを感じて、楓は胸元を強く掴んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ