それは突然に(2)
稔川学園の校門前は、通学のピークともなると、黒塗りの車の渋滞となる。
車の通学が認められているためだ。といっても、もちろん本人が運転するのではなく、れっきとした運転手がいるのだが。
生徒の約半数が車での通学。
渋滞となるのも頷ける。
今日も高そうな外車が列をなしている。
「たくっ。通学くらい、自分の足を使えっていうんだ」
それを見てぼやいたのは静揮だった。
稔川学園には、自分たちを上層階級の人間と自負し、傲慢な態度を取る生徒が多い。
この車での通学もその一つだ。
どれだけ豪奢な自家用車で通学するか。
それが生徒たちの一種のステータスにも繋がっている。
そのことを静揮は毛嫌いしている。
「そんなの個人の自由だろ。ま、邪魔だということは認めるけどな」
隣りを歩く綜一狼も静揮の発言に賛同する。
「でも、ホントに毎日のことながらすごい光景だよね」
「あー、鬱陶しいっ。だから金持ちは嫌なんだ。金があればあるほど、性格が歪んでる奴が多い」
十分金持ちであるはずの静揮は、ハァとため息を付く。
「それは俺に対しての嫌味か?」
綜一狼はジロリと静揮を睨む。
綜一狼の家は世界にも顔が広く、日本の五本の指に入るほどの資産家だ。
「おぉ、恐っ。俺、ちょっと体育館に顔出ししてくるからさ。じゃあな、楓」
「あ、うん」
綜一狼からの威圧を感じて、静揮は慌てその場から退散してしまった。
「あいつの言葉は否定しないが、一括りにされるのは冗談じゃないぜ」
小さく舌打ちして、綜一狼は頗る不機嫌な顔になる。
「大丈夫。本当は静ちゃんだって、綜ちゃんをそんな風に思ってないよ。静ちゃんにとっても、私にとっても綜ちゃんは自慢の幼馴染だもの」
楓は慌ててフォローを入れる。
「自慢の幼馴染か。どうせなら俺は・・・・・・」
その言葉に、綜一狼はチラリと楓を一瞥する。
「ん?」
そんな綜一狼の次の言葉を、楓は不思議そうな顔で待つ。
「いや。何でもない」
「なにそれ? 変な綜ちゃん」
楓は怪訝そうな顔で綜一狼を見上げる。すると苦笑している綜一狼と目が合う。
(何なんだろ?)
どうやら呆れられている。そのことだけは分かった。が、それがどうしてたなのか、そこまでは分からない。自分は何か変なことを口走っただろうか?
思い返しても答えは出ない。
「そんな考え込むなって」
隣でおかしそうに笑っている綜一狼の姿を見ながら、楓は思わず声に出して唸ってしまうのだった。