それぞれの想い(3)
静揮の声に楓はドキッとする。
「俺が口を滑らせたんだよ。楓だって事の一部始終を知ってる訳だし。今回だけ、見逃してやってくれないか」
楓の間をすり抜けて、静揮は綜一狼の前に歩み出た。
「今回のことは、トップシークレット扱いにしたはずよね。それを漏らすなんて、迂闊すぎるわ」
透子の非難めいた言葉が静揮に向けられる。
「透子さん、違っ……」
「黙ってろって」
楓の言葉を制し静揮は優しく微笑む。
いつもと何ら変わらない、優しい兄の顔。
先ほどの出来事が嘘だったのではないかと思えるくらいに。
「俺が迂闊だった。すまん」
静揮は綜一狼に頭を下げる。
「知ってしまったものは仕方ないか……。今度だけだ。幸い、まだ他の生徒会役員にはバレてない。透子、この馬鹿に免じて見逃してくれないか?」
「公私混同ですよ、それは。……でも、あなたは言い出したら聞かないし。今回だけですよ」
「ありがとう。透子。取り合えず、楓一人で帰す訳にはいかないな。静揮、お前も楓と一緒に帰れ」
綜一狼は幾分表情を和らげ、静揮に言う。
「あ、別に俺が送ってってもいいぜ」
横で欠伸をかみ殺していた守屋が、首を突っ込む。
「お前じゃ、なお更心配だ」
「うわー、ひっでーの」
取り付く島もないほど、きっぱりと言い放つ綜一狼に、守屋は不満げな顔をする。
「……俺なら安心なのか」
自嘲気味な静揮の言葉が、楓の耳にはっきりと届く。
「何か言ったか?」
「いや、そうだな。楓、一緒に帰ろうぜ」
普段と変わりない静輝。
だが、楓はどう反応していいか分からず黙り込む。
「楓の気持ちも分かるが、今回のことは生徒会の行事でもある。生徒会長の俺が、そのルールを破るわけにはいかないんだ。分かるよな?」
楓の無言を別のことと捉えた綜一狼はそう言い放つ。
「安心して。私たちがちゃんと空の涙は見つけ出すわ」
続けて、透子もそう言って、艶やかに微笑む。
立ち並ぶ二人は、それだけで絵になるくらいに綺麗だ。
透子なら、綜一狼の補佐としてもパートナーとしても申し分ない。
少なくとも、自分のように足手まといにはならないだろう。
自分は、綜一狼の邪魔にしかならない。
「きゃー!」
唐突に、通路の奥深くから、女性の悲鳴が響いた。
「なに?」
それは確かに人の悲鳴だった。
「やめようぜ。ホラー映画じゃあるまいし」
石造りの地下室。
あまりにもはまり過ぎなシチュエーションに、守屋は肩を竦める。
「行ってくるっ。楓が行くのはまずい。透子、楓と一緒に居てくれるか?」
「分かりました」
「静揮と守屋は俺と来い。楓、そこから動くな」
緊迫した空気の中、楓は小さく頷く。
さすがに一緒に行くなどと、今回はわがままも言えなかった。