それぞれの想い(2)
「密偵というか。まぁ、そこいらの奴らとは、縁のない仕事だってことは確かだな。ちなみに、俺、本当はここの生徒でもないんだ。内緒だけどな」
楓の問いに暫く考える仕草をしつつ、守屋はそう言い放つ。
「全然分からないです」
楓は不審の眼差しを向けながら呟く。
大体、どこの学校に密偵なんていうものがいるだろう?
いくら名門校と言ったって、おかしな話だ。
「いいんだよ。分かんなくて。んじゃあ、次は俺が聞く番。あんた、さっき泣いてたよな? 迷子じゃないとすると、何でだ?」
「それは……」
楓は口ごもる。
とてもじゃないが、人に話せることじゃない。
得体の知れない目の前のような人物にならなお更だ。
「話せないかぁ。ま、別にいいけど。とりあえず、生徒会長には報告しとこうかな。恩を売れるし」
「だめっ」
シラッとした守屋の台詞に、楓は間髪を入れず声を上げる。
「それはダメです。絶対にダメなんです!」
「ぷっ。あははっ。そんな恨めしそうな顔すんなって。いいよ。言わないから。俺、こう見えても紳士だし」
おかしそうに笑いながら、守屋は明るくそう言い放つ。
「は、はぁ。あの、ありがとうございます……」
思ったよりも、悪い人ではないのかもしれない。
屈託なく笑う守屋をみて、楓はそんなことを思う。
「でもさ、今日はもう遅いし、とりあえず家に送ってやるよ。南条のお姫様を、こんな危険な所に置き去りにしたとあっちゃあ、会長に闇討ちでもされかねねぇ」
立ちつく楓に手を差し伸べる。
「確認しなきゃいけないことがあるの。平気です。ちゃんと一人で帰れますから」
その手を取らず楓は大きく首を振る。
「いやいや。そう言う訳にはいかない……」
その時、唐突に明るい光に照らし出される。
あまりの眩しさに、楓は目を細めた。
「楓?」
「……綜ちゃん」
そこに綜一狼が立っていた。
楓の存在に、さすがに面食らっているらしく目を見開く。
「あら、何だか話し声がすると思ったら、意外な組み合わせね」
その後からやって来た透子が、二人を交互に見て呟く。
綜一狼と透子。
二人の姿に、楓の心がチクリと痛む。
「言っとくが、別に俺が連れてきた訳じゃないぜ。たまたま偶然会っただけだ」
綜一狼の言葉を待たず、バツが悪そうに守屋は言葉を吐き出す。
「どういうことだ、楓?」
「ごめんなさい」
そう言うしかなかった。
今更何を言い訳しても始まらない。
理由は何にしろ、自分がこうして、ココに忍び込んだことは事実なのだから。
「楓、きちんと説明を……」
「悪い。俺の所為なんだよ」
更に言い募る綜一狼の言葉を遮ったのは、その場に駆けつけてきた静揮だった。