それぞれの想い(1)
楓はただ無心に歩いていた。
仄かな蝋燭の明かりだけが頼りのその場所で、何度か躓きそうになりながらもただ歩いていた。
胸の鼓動がいやに大きく聞こえる。
好きなんだ……。
静揮の声が耳から離れない。
家族だと思っていた。
血は繋がらなくても家族なのだと。
いつの間にズレてしまったのだろう?
自分の『好き』と静揮の『好き』は違いすぎる。
「鈍感」
静寂の中、呟いた自分の声がいやに大きく聞こえた。
まさか義兄が好きな女性が自分だったとは、夢にも思わなかった。
心のどこかで、今のままの関係が永遠に続くのだと思っていた。
自分と綜一狼と静揮。
頼りになる兄と幼馴染。
三人で仲良く。
何て都合のいい考えだろう。
永遠なんてありえない。
何にでも終わりはあるのに。
そんなこと、ずっと昔から分かっていたはずなのに。
どうしたらいいのか分からない。
楓は無性に綜一狼に会いたかった。
(また頼ろうとしてる……)
そのことに気が付いて、楓は自分を嫌悪する。
どうして自分はいつもこうなんだろう?
どうして自分はいつも……。
「あれー? そこに居るのは、南条のお姫様じゃねぇの?」
楓が振り返る間もなく、声の人物は楓の目の前に姿を現す。
金色の髪に着崩すした制服。
耳には金色のピアス。
ひょうひょうとしたその顔に、楓は見覚えがあった。
「うおっ。な、泣いてるのか? あっ、迷子かよ。ま、こんなかび臭いとこお姫様にゃあ、似合わないぜ。俺が外に連れてってやるから。泣くなよな」
楓が反応する間も無く、相手はワタワタしながらツラツラと言葉を並べ立て手を取る。
「ち、違いますっ。いいんです。私は別に迷子じゃないてすって。あなたこそ、どうしてこんなところにいるんですか?」
慌てて涙を拭き取り、男の手を払いのけると楓は疑わし気に男を見る。
「ふぅん。一応、覚えててくれたんだ。ま、改めて自己紹介。俺は守屋渉」
ニッと笑って、守屋は親指を自分に向ける。
「そうじゃなくて私が聞いてるのは、どうしてあなたがここに居るかっていうことです」
ルナは言っていた。
今回のこの件はトップシークレット。
選ばれた生徒は、それぞれに長けた数十名だけ。
失礼なことだが、この守屋という人物が、その数十名に選ばれたとは到底思えない。
「うーん。それは言えない。ま、とりあえず、依頼人からの内密な指令を受けているとだけ、言っておこうか」
本当か冗談か分からない顔で、守屋は口元に指を当てておもしろそうに笑う。
「それって綜ちゃん……生徒会長から?」
「内緒だよ」
楓の問いに守屋は小さく笑う。
「あなたって、何者なんですか?」
不信感を露にする楓に、守屋はニッと笑ってみせた。