ずっと好きだった(4)
「静ちゃん、どうしたの?」
「……」
楓の手を強く掴んだまま、静輝はその場から動かない。
離してしまったら、楓が本当に自分から離れてしまう。
そんな危機感に襲われた。
静揮は抑え切れない思いが口をつく。
「昔と逆だ」
静揮は俯いたまま静かに呟く。
「え?」
「今は、俺が楓の手を離したくないんだ」
「静ちゃん?」
不思議そうに自分を見つめる少女。
渡シタクナイ。
静揮の顔を覗き込んだ瞬間、楓は手を強く引かれ、静揮の胸の中に倒れ込んだ。
カランッ。
妙に大きな音を立てて、懐中電灯が静揮の手から滑り落ちる。
息苦しいほどに強く抱きすくめられる。
楓は驚き身を硬くする。
「好きなんだ。妹だなんて思えない。俺は、兄妹としてじゃなく、お前のことが好きなんだ。ずっと好きだった」
掠れた声。
その時、震えていたのは楓だったのか静揮なのか。
「嘘・・・・・・冗談」
そう呟いた楓の声も、ひどく乾いたものだった。
そうじゃないことは、静揮の性格を知っている楓が分かりすぎるほどに分かっていた。
しかし、この状況下で言うべき言葉が見つからない。
「嘘じゃない。冗談でもない。本当はこんなとこで言うはずじゃなかった。でも、もう限界らしい」
静揮はフッと楓に回していた手を緩め、楓の顔を覗き込む。
その瞳があまりにも真剣で、楓はうまく言葉を紡げない。
「静ちゃん、私は」
静揮を見上げた途端、楓は唇を塞がれた。
それがキスなのだと、自分が静揮と唇を合わせているのだと、その事実に気が付くのに、大分時間がかかった。
気が付いたと同時に、楓は静揮を突き飛ばし、数歩後ず去る。
「……」
「……」
長い沈黙。
もしくはそれは数秒だったかもしれないが。
「楓」
静揮が口を開く。
それに対し、楓はビクリと肩を震わせる。
「お前にとっては、俺はまだただの『兄』なのかもしれない。けど、俺は楓を一人の女の子としてみている。もうずっと前から」
思ってもみなかった告白。
今まで、静輝には浮いた話のひとつもなかった。
たくさんの女子に告白もされたし、ファンクラブが出来るほどの人気だったというのに。
『いつか静ちゃんに彼女が出来たら、一番に教えてね』
高校に入り、その人気を目の当たりにした楓は、静輝にそう言ったことがある。
その時、静輝は何も答えなかった。
ただ、困ったように笑っただけで。
その時の気持ちは、どんなものだったのだろう。
「……ごめん。私、先に行く……」
まともに静揮の顔を見られない。
震える声でそう言うのが精一杯だった。
今は、混乱する頭を冷やす時間が必要だ。
「楓。俺は謝らないから。今のが俺の嘘偽りの無い気持ちだ」
ためらいの無い凛とした静揮の声。
しかしそれに答えることは出来なかった。
楓は静揮を振り返らずその場から走り出した。