ずっと好きだった(1)
稔川学園の地下室に続く階段。
楓は静揮と二人で降りていた。
そこはまるで西洋の城。回りは石の壁。
もちろん階段も石。
足を一歩踏み出すたびに、カツーンッと靴音が子気味よく響く。
唯一現代を感じさせるのが、明かりが懐中電灯だということ。
壁にポツリポツリと蝋燭が立てられているものの、電灯の明るい光になれている楓たちにとっては、光と呼ぶにはあまりにも頼りなさ過ぎる。
「信じらんねー。いくら地下だからって、電球の一つくらいつけろよ」
楓の前を歩く静揮が、ブーブーと文句を垂れる。
しかしそれももっともな意見である。
常に最先端の技術を取り入れている学園。
そのはずが、地下のこの荒みよう。
まったく使われていなかったのだということが見て取れる。
一体何のためにあるのか。甚だ疑問だ。
「静ちゃん、待って」
後ろを歩く楓がヨタヨタとしながら言う。
暗闇で方向感覚が掴めない上に、階段の段差がけっこう急で、気を抜くと躓いてしまいそうだ。
長い長い階段。
そのまま落ちたら、洒落にならない。
「悪りぃ」
静揮は立ち止まり楓を振り返る。
静揮の速度はかなり速い。
野性的勘というか、平衡感覚が良いというか、ともかく、文句を言いつつも、ヒョイヒョイと階段を降りている。
当然いつもスローテンポの楓には、付いていくのが精一杯だ。
「やっぱり危ない。楓は……」
「帰らないよ」
静輝の言葉を遮り、楓はキッパリ言い放つ。
「ったく。いつもは素直なくせに、変なところが頑固だよなぁ」
「ごめんなさい」
足手まといだという自覚はある。
楓がいなければ、静輝は身軽に今回のことに集中出来ただろう。
「謝ることじゃねーよ。けど、一緒に来てどうするつもりなんだ?」
「もちろん。空の涙を見つけるのよ」
「……それって、聖って奴のことが関係してるんだよな。何か思い出したのか?」
「……」
その問いに、楓はなんと答えていいか分からず、押し黙る。
「俺には知られたくないか?」
「違うよ! そうじゃなくて……。何て説明していいか分からない。聖のこと、本当に何も思い出せてないから。ただ、多分出会ったことのある人だと思う」
楓は正直にそう告げる。
「そっか……」
「静ちゃんは、どうして今回のことに参加しているの? あの、空の涙を見つけ出して、何か望みがあるとか」
静輝は、学園の行事はともかく、生徒会主催のイベントには、あまり参加をしない。
楓は知らないことだが、影でいいように学園を動かしている、綜一狼が率いる生徒会を好きではないからだ。
「今回のことは、楓にも関わることだろ。それが何なのか分からないが、分かることがあるなら、参加するさ。俺の望みは、楓がいつも笑顔でいられることだ」
言葉にしなくても、楓が過去のことで苦しんでいることは知っている。
亡くなった両親のこと。
思い出したくても思い出せない小さな頃のこと。
それを癒しきれない自分をずっと歯がゆく思っていた。
今回のことも、何か裏で動いている綜一狼に比べ、自分はまったく蚊帳の外だ。
少しでも、何か分かることがあればと、即座に参加を決めた。
「静ちゃん。ありがとう」
「当たり前だろ? 楓は、俺の家族なんだから」
少し照れたように、楓から視線を外しながら、静輝はそう言葉を口にする。
「うん。静ちゃんが一緒なら心強いよ。がんばって、空の涙を探し出そう」
「だな。あー……楓、手掴まれよ」
静揮は楓へと手を差し出した。