月と狼(3)
「な、何で楓がここに居るんだよっ」
数秒のフリーズののち、静揮はやっと上ずりながらも声を出す。
「あ、えっと」
何とも言葉が出てこない。
楓は困り果てて、自分の後ろにいるルナを振り返る。
「はれ?」
が、居るはずのそこにルナの姿はなかった。
「ごめーん。楓っ。後は任せましたっ!」
いつの間に移動したのか、数メートル先に居るルナはそう言って、にっこり笑って軽くウィンクすると、走り去っていった。
「ルナの裏切り者~」
「さて、楓。説明してもらおうか」
半べその楓の肩をガシリと掴み、静揮はニッと意地の悪い笑みを浮かべた。
その場に長い沈黙が降りる。
「説明」しようにも、まさか本人を目の前にして、不正なアクセスでシークレットメールを見たとも言えない。
人一倍嘘の下手な楓は、こういう場合は黙っていることしか出来ないのである。
「……」
「俺と綜一狼の話を聞いちまったんだな」
最初に沈黙を破ったのは静揮だった。
「えっと」
「まぁ、あんなところでうっかり話しちまった俺も迂闊だったんだよな」
どうやら静揮は誤解をしているらしい。
しかし、楓にとなっては都合のいい誤解だ。
これで、下手な嘘を付かなくてもよくなった。
楓はホッと胸を撫で下ろす。
「それにしてもだ。招待を受けてないのに、こんなところに来るのはルール違反だろ? それになにより、セキリュティは完全解除されてるんだ。危ないだろう」
「でも、私だって関係している一人なんだよ。黙ってるなんてひどいよ」
そのことに関しては、楓だって文句を言いたいとこである。
「教えたら来たがっただろ」
「もちろん」
楓の答えに、静揮は大きなため息を付く。
「お願い。私も参加させて。静ちゃんたちの邪魔はしないようにするから。私は私で探すから」
縋り付くように、楓は真剣な眼差しを静揮に向ける。
ここまで来て帰るのは絶対に嫌だ。
「……」
静揮は暫く無言で楓を見る。
「……たくっ。そんな顔されてダメだなんて、俺が言えるわけ無いだろーが」
軽く楓の頭を小突いて静揮は苦笑する。
「ありがとう! 静ちゃん」
「ただし、絶対に俺から離れるなよ。セキュリティが解除されちまってるんだ。どんな奴が紛れているか、分かったもんじゃない」
「うん」
夜狼の聖。
もしかしたら、彼も来ているのかもしれない。
そう思うと小さく胸が疼く。
「それと、綜一狼には見つからないように気を付けろ」
「分かってる」
「あいつ、勘もけっこういいからなぁ」
あの綜一狼にどこまでバレずにいられのか。
静揮は前途に不安を覚えるのだった。