月と狼(1)
「それにしても、こんな広い場所から、どうやって見たこともないものを探し出せばいいんだろ?」
「そーいえば、そこまでは全然考えてなかったわ」
校舎内に足を踏み入れて、楓とルナは顔を見合わせる。
「入れば何とかなると思ったんだけど」
ガランッとしたその場をグルリと見て、ルナは肩を竦める。
「見渡す限り、誰もいないのね」
廊下や各部屋の電気は煌々と付いてはいるのだが、人の気配というものがまったくしない。
いくら人数が少ないとはいえ、誰か一人くらいには、出くわしてもいいくらいのものだろう。
「警備も手薄になってるし、本当にやる気があるのかしら?」
意気込んできただけに妙に拍子抜けしてしまう。
「うーん。どうしよう」
楓は考え込む。
この広い領域をすべて探すなど、一日かかったって無理だ。
「どこかこう、『ここだっ!』ていうところはないの? ・・・・・・楓だったらどこに隠す?」
「私、だったら?」
ルナの言葉に思いをめぐらせる。
隠すのなら人のいない場所。
けれどココは学園だ。
そんな場所はそうそうあるはずも……。
「地下室とか?」
閃いたのは立ち入り禁止になっている地下室。
生徒はもちろん、教師ですら入ることを禁じられているその場所。
生徒会長である綜一狼でさえ、その中がどういう風になっているのか知らないと言う。
「地下?」
「うん。この学園には、地下室があるの。でも、地下はすごく厳重に立ち入り禁止になっていて誰も入ったことがないのよ」
人の出入りを禁じている唯一の場所。
隠し場所としては最適なはずだ。
「そう。地下室……」
ルナは考え深げに言葉を零す。
「入り口は確か、中棟のはずれだったと思う。行こう!」
「え、ええ」
ルナを促し、楓は歩き出した。
人のいない建物。
それは、とても無機質な空間。
生の息遣いがない。
例え光があってもひどく心細く寂しくなる。
そこに人が営む瞬間を知っていれば、なお更のことだ。
「何だか、静か過ぎて恐いね」
ゆっくりと歩きながら楓は隣りを歩くルナを見る。
「別に恐くはないわ。ただ、ひどく虚しいだけよ」
ルナの言葉に楓はフト思い出す。
小さな頃、たった一人で取り残されたときの事を。
すべてが息づき、生活の匂いがしたその場所。
それが、一瞬のうちに別の空間へと変わった。
一人取り残された恐怖。
しかしそれ以上に、その場に一人置き去りにされたという虚しさ。
その気持ちは、今もはっきりと思い出すことが出来る。
「ねぇ。ここのところ流れてる噂があるんだけど、知ってる?」
ルナのその言葉に、楓はハッと我に返った。