宝探しの始まり(3)
「静ちゃん、こんな話一言もしてなかったのに」
綜一狼のことだ。
何か行動を起こすだろうとは思っていた。
しかし、これほど大掛かりなものになるとは。
楓の予想を超えていた。
「そりゃあそうよ。これが送られたのは、それぞれに長けた生徒数十人だけ。トップシークレット扱いのメールみたいだし。あ、これもたまたま見ちゃっただけよ」
どこでどう、そんなものをたまたま見るのか?
しかし、楓にはそんな突っ込みを入れる余裕もない。
聖がほしがっている『空の涙』
綜一狼はそれを本気で探し始めるつもりだ。
自分の知らない間に、事は動きだしていたのだ。
「綜ちゃんてばずるい」
思わず楓は呟く。
確かに一人で探すとは言っていなかったが、これじゃあどう考えても楓に分が悪い。
「そう思うでしょ? だから、私たちも参加してみない?」
唐突なルナの提案。
「で、でも、私たちは招待されてないわけだし。絶対に中に入れてくれないと思う」
綜一狼のことだ。
有無を言わさず、家に帰らされるのは目に見えている。
「最初から中にいればいいじゃない」
いたずらっこのような表情でルナはにっこりと微笑む。
「無理だよ。生徒の出入りも、認証カードで管理されているのよ? 構内に残ってるのなんてバレバレだよ」
「うんうん。それは大丈夫。そういうシステム系って、私、いじるの大得意なの」
何でもないことのように、すんなりとルナは言い放つ。
「そ、それって校則違反じゃないの?」
「違うわよ~。だって、校則にデータの改ざん禁止なんてなかったもの。それに、『得意』って、言ったでしょ? バレないから大丈夫よ」
「だけどそんなこと……」
「出来ない」と言いかけて、楓は言葉を止める。
いつもの楓なら、絶対に乗らない話だ。
「いいじゃない。別に、誰かの邪魔をするわけじゃないもの」
「うん。そうだよね。やってみようか」
こうなったら駄目で元々だ。
楓はルナの言葉に頷く。
やってみなきゃ分からないと言ったのは、楓自身なのだ。
こうなったら、何が何でも空の涙を見つけ出すのだ。
「そうこなくっちゃ。隠れる場所はいい所を知ってるの」
楓の返事に、はりきった様子でルナは立ち上がる。
(私に出来るのかな?)
こんな無謀な挑戦ははじめてのことだ。
ドキドキと鼓動が高鳴る。
緊張とともに、どこかワクワクする楓だった。