宝探しの始まり(2)
「楓、楓―。早くっ」
コンピュータ室。
一足早く来ていたルナが、楓の姿を見つけて手招きをする。
ズラリと並んだ最新式のパソコン。
その真ん中ら辺の席を陣取って、ルナは一つのパソコンの画面を開いている。
画面を見たまま、カチカチとリズミカルな音を立てながら、長い指は次々にキーを弾いていく。
相当手馴れている仕草だ。
「ね、これ見て」
暫くルナの手さばきに見入っていた楓だったが、その言葉にパソコンの画面を覗き込む。
画面には、稔川学園の校章がくっきりと映し出されている。
太陽と月をモチーフにしたシンプルな印。なんの変哲もない、見慣れた形。
だが、その色は目に痛いほどの赤。
「これって」
楓は思わず画面を凝視する。
パソコンの中に映る赤い校章マーク。
それは特別な意味がある。
通称シークレットメール。
生徒会が、極一部の生徒にだけ流す情報。
個人のことであったり、学園の秘密事項であったりと、使われる目的はさまざまであるが、ともかく相当なことがなければ使われないものである。
楓もその存在を聞いて知ってはいたが、見るのははじめてだ。
それが、目の前の画面にははっきりと映し出されている。
「な、なんで静ちゃんのメールパスワードなんて知ってるの!」
個人情報厳守のこの学校では、メールを開くには一人に一つのパスワードを入力しなければならない。
それは他の生徒はもちろん教師ですら知らない、自分だけの暗証番号だ。
それを他人に教えるということはありえない。
それなのに、目の前の画面に映し出されているのは、紛れもなく静揮宛のメールだった。
「アクセスしてみたらでちゃった」
悪びれる様子もなく、にっこり笑顔で答えるルナ。
「だ、だめだよっ。早く、消さなきゃっ」
こんなことが知れたら大変なことになる。
不正なアクセスなど、停学どころの話じゃない。
楓はあたふたとパニック状態になる。
「いいから、いいから」
何がいいのか分からないが、そんな楓をルナはやんわりと押しとどめる。
「それよりもこれを見てよ」
「だからっ、見ちゃだめなんだってばー」
クルリと回れ右をして、楓は困ったように言う。
「ムー」
一向に画面を見ようとしない楓に、ルナは不満げな視線を向ける。
そうしてから、大げさにポンッと手を打つ。
「それじゃあ、読んであげる」
幸いにも、コンピュータ室にいるのは、楓とルナの二人だけ。
防音効果ばっちりのこの室内ならば、多少の大声も問題ない。
「だからね、そういう問題じゃ……」
「南条静揮様。あなたを宝探しにご招待致します。学園内にある『空の涙』を探し……」
そこまで淡々とルナが呼んだ時、楓は思わず画面を振り返る。
『学園内にある『空の涙』を探し出してください。尚、見つけ出した方への報酬は望みのままに……。屈強なるあなたのご参加をお待ちしています。 生徒会』
そこまでを一気に読んだ。
「ね、おもしろい話でしょ? あ、誤解しないでね。別に見ようと思ってみたわけじゃないのよ。たまたま、本当に偶然見ちゃったの。せっかくだし、楓にも教えてあげようかなーって思っただけ」
言い訳を始めたルナだったが、すでに楓の耳には入っていない。
よそよそしい雰囲気の二人。
やっとその理由が分かった。
一週間後とは書いてあるが、送られたのは前の週。
つまり、今日がその『宝探し』の日なのだ。