キス×2(7)
「うそ……」
綜一狼の告白は思いがけないものだった。
「本当だ。やっぱり覚えていない……か」
どこか自嘲気味に、綜一狼は顔を歪める。
「そ、それって、いつのことなの?」
思わず声が上ずる。
知りたいと思っていた過去。
その一片に綜一狼もいる。
そのことに、楓は大きな衝撃を受ける。
「教えない」
自分を驚きの眼差しで見ている楓に向かって、綜一狼はきっぱりと言い放つ。
「え?」
一瞬聞き違いだと思った。
楓は綜一狼の言葉に目が点になる。
「楓は覚えてないんだろ? だったら、それはそれでいいんじゃないか?」
冷たい口調で、綜一狼は投げやりに言葉を吐き出す。
「何でそんなこと言うの? 知ってるなら教えてくれてもいいじゃない」
開き直ったかのような綜一狼の態度に、楓はムッとする。
「嫌だ。知りたいなら、自分で思い出してみろよ」
まるで小さな子供が拗ねたようにそっぽを向く。
その様子に、楓は呆気に取られる。
「何でそんな意地悪言うの?」
理不尽なものいい。
楓も思わず感情的になって、けんか腰になってしまう。
「思い出せない過去なら、無理して思い出すことない。そう思うから」
「私は、思い出したいよ。どんなことでもいいから。聖とだって……」
「なんで、楓はあいつにこだわるんだ?」
楓の言葉を遮り、綜一狼は不満気に言葉を吐き出す。
「そんなの私が知りたいくらいだよ。あの人が私にとって何なのか。でも、思い出せないんだものしょうがないじゃないっ」
聖をみると、何かを思い出せる気がするのだ。
それが何なのか知りたい。
そう思うことは、自然なことのはずなのに。
今日の綜一狼は、妙につっかかってくる。
「……俺のことは忘れてるくせに、あいつのことは気になるのかよ」
「え? 今なんて言ったの?」
自分の考えに没頭していた楓は、口の中で転がすような綜一狼のぼやきを聞き逃す。
「別に。ともかく、俺の口から言うことは何もない」
「……」
過去へ繋がる糸口なのに。
それなのに、綜一狼は何も話してはくれない。
他には何の手がかりもない。
唯一、自分と聖を繋げるものは空の涙。
そう。聖の一番の目的は空の涙のはずだ。
「分かったわ。私、空の涙を見つけ出す」
「はっ? どうしてそうなるんだ」
唐突に出た楓の言葉に、綜一狼は間の抜けた顔をする。
「綜ちゃんも空の涙を探してるんでしょ? だったら、もし私が先に空の涙を見つけ出したら、綜ちゃんが知ってること全部教えて」
綜一狼に挑むように視線を向ける。
「楓には無理だ」
楓の視線を受けてとり、少しばかり冷静になった綜一狼は、即座に言い放つ。
「無理かどうかなんて、やってみないと分からないじゃない」
考えてみれば、今まで何をするにも綜一狼の力を借りてきたのだ。
自分は綜一狼に依存している。
綜一狼と透子の決定的な場面を目撃してしまった今、これ以上、綜一狼には甘えられない。
そう痛感した。
「綜ちゃんが何と言っても私は探すから」
楓はいつになく強い口調で言い放つ。
「……勝手にしろ」
綜一狼は投げやりに言い放つ。
「絶対見つけるから」
それだけ言うと、楓は生徒会室を後にした。




