キス×2(4)
放課後。
生徒会室の前で、楓は行ったり来たりを繰り返す。
聖が現れたこと。
それを綜一狼に告げるべきかどうか迷っていた。
綜一狼はここのところ、何かしらの雑務に追われている。
今日も、生徒会の仕事で遅くまで残るという話を聞いていた。
(ここで逃げちゃだめだ。綜ちゃんはきっと、何か知ってるはずだもの)
「し、失礼します」
楓は決心して、ゆっくりと生徒会室に入る。
長い机が並ぶ大部屋。
そこに人の姿はない。
ただその場に置かれたホワイトボードには、
『放課後の生徒会会議は視聴覚室で』
と書かれている。
つまり今は、視聴覚室で会議中ということになる。
「いないんだ」
拍子抜けして楓は小さく呟き、息を吐き出す。
聖が言っていた言葉。
『嘉神綜一狼から離れた方がいい・・・・・・』
なぜ突然にそんなことを言うのだろう?
一体どういう意味なのか。
まったく分からない。
そして、思い出していない『何か』
記憶を過去へ過去へと遡らせる。
けれど記憶は徐々に途切れ途切れになっていく。
暗闇。
月明かり。
静寂。
そして……血の色。
頭がズキズキと痛み、胸の鼓動が早まる。
忘れたい訳じゃない。
けれど、思い出すにはあまりにもつらい。
思い出を手繰り寄せれば、最後に行き着くのは底なしの悪夢だから。
「やっぱり逃げてるのかな」
悲しい過去を、無意識に忘れようとしているのかもしれない。
楓は目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。
遠くから、部活動に勤しむ生徒の声が微かに聞こえてくる。
風のザワメキと鳥の声。
穏やかな日常。
気持ちが徐々に落ち着いていく。
微かに頬を掠めた風が優しい。
「風?」
誰もいないはずの部屋の窓が開いている。
何となく気になって、楓は奥の部屋に入る。
生徒会室は吹き抜けで、二部屋に分かれている。
入り口近くの会議用の個室と、奥の生徒会長席と諸々の資料保管の空間。
風は奥の部屋から来ている。
きっと誰かが閉め忘れたのだろう。
何気なしに入り込んだ部屋。
入った瞬間、楓は思わず声を上げそうになり、慌てて口元を抑える。
(な、何でいるの?)
そこには、いないとばかり思っていた綜一狼の姿があった。




