キス×2(1)
「楓っ!」
次の日。
教室に入るなり、ルナが飛びつかんばかりの勢いで楓に走り寄ってきた。
綺麗なグリーンの瞳をキラキラとさせ、ニコニコと微笑んでいる。
「お、おはよう。ルナ」
そんなルナの様子に楓は思わずたじろく。
こういう時のルナは、何かおかしなことを考えている時なのだ。
「で、昨日はどうだった?」
「・・・・・・」
ルナの言葉に楓は黙り込む。
「あらら? ご機嫌斜めね。何かあったの?」
頬を膨らませ、珍しく不機嫌な様子の楓のに、ルナは目を丸くする。
「綜ちゃんとは途中までしか一緒に帰ってないの。途中で用事が出来たからって、どこかに行っちゃったから」
「それで怒ってるんだ」
「別に怒ってないわよ。ただ、あんな唐突に行っちゃうんだもの。せめて理由くらい教えてくれたっていいと思うのよ。一緒に帰るのも久しぶりのことだったんだし」
その上、意味深なあの会話。
今日の朝も聞いてはみたが、うまく話をはぐらかされてしまった。
夜狼のことは、自分だって無関係ではないのだ。
それなのに、綜一狼は何も話してはくれない。
「ふぅん。ちょっとは、進歩があったのかしら?」
「何か言った?」
呟きを漏らしたルナの言葉を聞き取り、楓は不信そうにルナを見る。
「何でもないわ。あっ! そうだ。先生に教材運びを頼まれてるの。場所がよく分からないから付き合ってくれる?」
そう言いながらも、ルナはすでに楓の腕を引っ張り、席を立たつ。
「うん。いいけど」
せっかちなルナに苦笑しつつ楓は教室を出る。
それは、中棟にさしかかった時だった。
「えっと、確か中棟の……」
廊下を歩く楓の足が止まる。
「どうしたの? 楓」
「嘘・・・・・・」
楓は数メートル先の人物を凝視する。
ザワリと心が騒いだ。
何気なしに瞳を向けた先に彼はいた。
あまりにも唐突であまりにも意外なことに、楓は一瞬その人が幻なのではないかと思った。
楓から数十メートル離れた位置に、彼・・・・・・聖が立っていた。
青く美しい瞳の青年。
見間違うはずもない。
一度見ただけのはずなのに分かる。
彼なのだと。
一瞬目が合うと、聖はそのまま、楓とは反対方向へと歩き出す。
「楓?」
「ごめん。ルナ! 先に行って」
楓は弾かれたようにその場から駆け出した。