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好きな人は……(6)

 晴れ渡る空の下、楓は綜一狼と共に歩く。


「綜ちゃん、もう傷は平気?」

「ああ。元々大した怪我じゃないし、包帯も取れたしな」


 そう言って、自分の肩を軽く叩いて見せる。


「よかった」


 楓は安堵の息を付く。


「そういう楓はどうなんだよ」


 綜一狼は楓が口を開く前に手を取る。

 傷つけられた手の甲はもうほとんど完治しているが、やはりまだうっすらと傷跡が残っている。


「痛くないか?」


 綜一狼は険しい顔で、壊れ物ののようにその傷跡に触れる。


「もう平気。料理も出来るようになったし。今度、夕飯も食べに来てね」

「ああ。もちろん。楽しみにしてる」


 交わされる何気ない会話。

 久しぶりに二人っきりになると、妙な気恥ずかしさがある。


(何でドキドキしてるんだろ・・・・・・)


 妙に綜一狼の存在を意識してしまう。おかしな感覚。落ち着かない。


「……」

「何だ? どうかしたのか?」


 黙りこんだ楓をみて、綜一狼は楓の顔を覗き込む。


 ことのほか近くに綜一狼の顔があり、楓の鼓動は更に早鐘する。


「ううん。べ、別に」


 綜一狼との距離をとろうとした楓の手を、綜一狼が掴み取る。


「綜ちゃん?」

「小さい頃を思い出すと思ってさ」

「あ……」


 綜一狼の言葉に楓も思い出す。

 

 


 それは、南条家に引き取られてすぐのことだ。

 どうしても両親に会いたくて、コッソリと南条家を抜け出した。

 夕暮れ時の、夜の帳が落ちかけている時だった。

 まったく道も分からず、だけど何とかして、元の家に行きたくて、ひたすらに歩いていた。


『お前、何してんの?』


 トボトボと歩いていた楓を見つけたのは、綜一狼だった。

 ものすごく驚いたような顔をされたのを、楓は今でもよく覚えている。


 どうしてそんな顔をするのか? 


 なぜ、自分を知っているのか?


 楓は、この時はまだ綜一狼が南条家の隣りに住んでいることを知らなかった。


「だれ?」


 楓の問いに、綜一狼はひどく不機嫌な顔になった。


「お前こそ誰だよ」

「……楓」

「ふぅん。俺は綜一狼」


 そう言うと、綜一狼は楓の手を握り歩き出した。


「あ、あの……」

「こんな時間に子供が出歩くな。送ってやる」


 綜一狼も十分子供なのだが、あまりのことに呆気にとられていた楓は、そんなことを言い返す余裕もなかった。


「ちょうど、このあたりだったよな」

「うん。それにしても、衝撃の出会いだったなぁ」

「そうなのか?」

「だって、子供でしかも初対面なのに『送ってやる』だもん。今にして思えばお隣さんだから、ついでに連れ帰ってくれようとしたんだよね」


 クスクスと笑う楓の手を、綜一狼はギュッと強く握る。


「綜ちゃん?」

「……あの後、大変だったよな。静輝に見つかって、誘拐犯だなんだって、いちゃもんつけられてさ」


 見上げた綜一狼の表情が一瞬翳りを帯びた気がした。

 だが、それは一瞬のことだった。


(見間違い?)


 今はもう、いつものように優しい笑みを浮かべている。


「おっ、何だよ。デートかよ。お二人さん」


 聞き覚えのある声に顔を上げると、いつの間にか、目の前に守屋が立っていた。

 楓と綜一狼を見つけて、からかう様に言葉をかける。


「ああ。見ての通りだ。つまり、お前は間違いなく邪魔だということだ」


 守屋の言葉にまったく動揺を見せることなく、綜一狼はきっぱりと言い放つ。


「んだよっ。そういうことを言うかな普通。人がアクセクがんばって働いてるつーのに。やる気無くすよな。本当に」


 素気無い綜一狼の言葉に、口を尖らせ守屋はブツクサと文句を垂れる。


「ワザワザそんなこと言いに来たのか?」

「俺はそんな暇じゃない。夜狼(ナイトウルフ)の件を話に来たんだよ」

 

 咳払いを一つしてから、表情をほんの少し引き締めて、綜一狼に言い放つ。

 守屋の言葉に綜一狼の顔色が変わる。


「! そういうことは先に言え」


 楓に絡めていた手を離す。


「楓、悪いが先に帰ってくれるか?」

「でも・・・・・・」

「すまない。この埋め合わせは必ずするから」

「姫さん、悪ぃな」


 楓が言い終わる前に、綜一狼はそう言うと、足早に守屋と共に行ってしまった。


「どういうことなのよ。一体」


 取り残された楓は、その場に暫く佇んでいた。


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