嵐の前の静けさ(2)
十月も半ばだというのに、額には汗が光っている。
それを拭っていないのは、ただ横着者なだけなのだが、いかにも「スポーツマン」といった趣があって、その姿が妙に絵になっていたりする。
「おかえりなさい。静ちゃん」
そう言いながら、楓は青年へとタオルを差し出す。
「ありがとな。はぁー、それにしても腹減った。やっぱり、食欲の秋だからかな」
端整な面持ちに、スラリと長身。
癖の無い黒髪は、そんじょそこらの婦女子よりよっぽど綺麗。
良家の子息らしいその容貌は、老若男女問わず好評で、朝の日課であるジョギングするその姿は、その閑静な住宅街ですっかり名物となっている。
品のある容貌に似合わず、性格はかなり大雑把で底抜けに明るい。
根っからの自由人だ。
南条静輝。楓の義兄にあたる。
「お前の場合、年中だろ。秋の所為にするなよ」
と、続いて顔を出したのは、嘉神綜一狼。
南条家の隣の住人。
適度に癖の付いた髪は、日の光にさらせば金色にも見える、明るい茶色。
着込んでいる制服は胸元のボタンを外して着崩し、着用を義務付けられている紺色のネクタイも緩やかに締められている。
校則違反ギリギリの出で立ちで、一見とてもそうは見えないが、楓達が通う名門校として名高い、稔川学園の生徒会長を務めていたりする。
意思の強そうな目と不敵さを感じさせる口元が印象的で、粗野な井出達をしているはずなのに、どこか気品すら漂う。整った顔立ちだが、静輝とは相反する雰囲気。
静揮が生粋の日本男児なら、総一郎は英国紳士といったところだろうか。
何事にもクールで、すべてを完璧にこなす。
頭脳明晰。スポーツ万能。
その上、喧嘩もめっぽう強く、ついでに地位も名誉もある。完璧人間。
冷静沈着な綜一狼と天真爛漫の静揮。
生まれた時から家が隣同士の悪友でもあり、色々な意味でライバル同士でもある。
(その上、こんな二人と幼馴染なんだもんなぁ)
立ち並ぶ二人を見て、思わずため息が出そうになる。
非の打ち所無くかっこいい。
学園でも人気を二分する二人。
他の女子生徒が見てもため息ものである。