好きな人は……(2)
「あら? スキンシップなのよ。これは。いいことでしょ」
ニコニコと笑みを浮べてルナは反論する。
「限度がある。くそ。女だと思って安心していたんだが」
最後の方は独り言のようにブツブツと呟く。
「むぅ。誤解しないでよ。私はあなたのライバルじゃないですから。私には、他にちゃあんと好きな人がいるんだから」
「ルナ、好きな人がいるの?」
そのの発言に楓は目を丸くする。
ルナの口からそんな話、一度も聞いたことがない。
「うん。素敵な人なのよ。綺麗で強くて優しくて。楓も会ったらきっと好きになるわ。だから会わせてあげない」
ルナは嬉しそうに言う。
「でも、そう言われるとますます会ってみたいな」
「だめ。それに、楓にだって、もう素敵な人がいるでしょ」
そう言ってルナは、意味深な目で綜一狼を見る。
「え? そんなのいないよ!」
両手をぶんぶんと振って、楓は驚いたようにルナを見る。
「あれれ。え? 違うの?」
これはルナにも予想外の言葉だった。
思わず間の抜けた声になってしまう。
「あ、もかして綜ちゃんのこと言ってるの?」
綜一狼を見ているルナの視線に気が付き、楓はポンッと手を打つ。
「違うの?」
「だから、今流れてる噂はまったくの嘘なのよ。私と綜ちゃんはただの幼馴染み。それに、綜ちゃんには透子さんがいるもの。ねぇ、綜ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・」
にっこり笑顔で「ねぇ」と同意を求められても、綜一狼には成すすべもない。
恐るべき鈍さ。
恐るべき勘違いである。
綜一狼は思わず眩暈らしきものを覚え、額を押さえこむ。
「綜ちゃん?」
ダメージを与えた張本人は、キョトンとした顔をしている。
「楓」
「ん?」
「これだけは言っておく! 俺と透子は、生徒会の役員同士というだけの間柄なんだ。いわば、チームメートだ」
綜一狼は楓の肩をガシリと掴んで、ゆっくりはっきりと真剣な眼差しを向けて言う。
「そうなの?」
そういえば、綜一狼の口からそう言った話を聞いたことはなかった。
けれど透子はいつも綜一狼のサポートをしていたし、二人は端から見れば絵に描いたような美男美女のカップル。
二人は付き合っているのだと、周りではもっぽらの噂だった。
「まさか、今までずっと勘違いしていたのか?」
「だって、綜ちゃんと透子さんてすごくお似合いだし。どっからどうみたって、そう見えるよ」
力説する楓に綜一狼は脱力する。
「楓。お前は俺のことをどう思ってるんだ?」
「ん? 大好きよ」
綜一狼の意図など分からずに、まったく何の臆面もなくにっこり笑顔で答える楓。
「じゃあ、私は楓」
ルナがひょっこりと、楓の目の前に顔を出し自分を指し示す。
「もちろん、ルナも好きよ」
楓はルナにも同じように笑みを返す。
「南条さーん。ちょっといい?」
教室の端の方に集まっている、女子たちが楓を呼んでいる。
「なに?」
その声に応じて楓は席を立つ。
「ちょっと行ってくるね」
「ああ」
楓の姿を見送ってから、綜一狼は小さくため息を付いた。




