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ぬくもりを求めて(2)

「きゃあっ」


 腕を引き込まれ、楓は悲鳴を上げる。


「盗み聞きはよくないよ。・・・・・・て、もしかして南条のお姫様?」


 腕を掴んだ主は意外そうに目を細める。


「お姫様ってあの」


 楓は戸惑いながらも相手を見返す。

 金に近い茶髪。猫っ毛なのか微妙に癖のある髪。

 目が悪いのかそれとも癖なのか、眉間に皺を寄せながら、楓の姿を睨むように見ている。

 その上、服装といったら綜一狼の上をいく着崩す方で、校則違反は完璧に破られていること請け合いな格好だ。

 とりあえず、学園のズボンとワイシャツ着用をしているために、この学園の生徒であるということは分かる。

 しかし、ワイシャツの第一ボタンを外した下には銀の鎖が見え隠れしていたし、指にはシルバーリングが光っている。

 その上、耳にも丸いわっか上のピアスを嵌めている。

 到底、善良な一般生徒には見えない。


「・・・・・・」


 楓は面食らってポケッとその人物をマジマジと見てしまった。

 学園内には、性格上問題のある人物はゴロゴロいるが、表面は真面目にといった者が大半だ。

 目の前にいるこの人物のように、奇抜(この学園内では)な人物と会ったのは、初めてのことだった。


「楓、こんなところで何をしてるんだ?」

「綜ちゃん」


 綜一狼の呼びかけに、楓はハッと我に返る。


「そーちゃん。・・・・・・プッ。似合わねぇ」


 楓と綜一狼の間で、男は二人を交互に見てニヤニヤと笑う。


「あの?」

「こんなに近くで見たのって初めて」


 ?マークが飛んでいる楓に、男はズイッと顔を近づけてまるで値踏みするかのように、楓を上から下まで繁々と見る。


守屋(もりや)、早く戻れ」

 

 男・・・・・・守屋の様子に眉を顰め綜一狼は言葉を吐く。


「そんな顔すんなよ。別に取って喰いやしないって」


 綜一狼の不機嫌な様子を見てとって、守屋は愉快そうに言う。

 そして、もう一度楓へと視線を戻す。

 楓は今だ状況が飲み込めずキョトンとして守屋を見ていた。


「あんた、将来有望株だね。うん。どうだろ? 綜一狼から俺に乗り換えてみない?」

「へっ?」


 守屋のサラリと吐いた言葉に、楓の思考回路は一瞬停止した。


「俺、こう見えても頭いいし。綜一狼に負けないくらい将来有望だぜ」

「あ、あの、その」

「赤くなってる。かっわいいー」


 守屋は素早い動きで後ろから楓に抱きつく。

 守屋からは微かな煙草の匂いがした。

 楓の体温は急激に上昇する。

 言葉をうまく口に出せず、パクパクとまるで酸欠の金魚状態である。

 守屋はクスクスと楽しそうに笑う。


(一体全体何なの?)


 からかわれているのは分かっている。

 分かっているのだが、そう言った免疫の少ない楓にはかなりきつい状態だ。

 逃げようとする楓だったが、守屋は一向に気に止める様子もなく楓に張り付いて離れない。


「は、離して・・・・・・」


 困り果てて言いかけたとき、フワリと体が軽くなった。

 綜一狼が守屋を引き離したのだ。


「俺は戻れと言っている」


 ヒヤリとするほど冷たい声が楓の耳に届く。

 振り向くと、綜一狼は守屋を壁につけて、殺気さえ感じる目を向けていた。

 まるで今にでも殴りかかりそうな雰囲気だった。


「そ、綜ちゃん・・・・・・」

「たくっ。相変わらず、お姫様のこととなると。冗談じゃん。見ろよ。姫さんが困ってるぞ」


 明らかにその原因は守屋なのだが、綜一狼はその言葉を聞きバツが悪そうに手を離す。


「サッサと行け」


 綜一狼は一度息を吐いてから、そういい捨てる。

 その言葉を受けて、守屋は一度肩を竦めてその場を後にした。

 後に残った綜一狼と楓の間に暫しの沈黙が下りた。


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