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転校生(4)

「言いたくないならいいけどな。でも、彼女には何か世話になったんじゃないか?」

「うん。窮地を救ってもらったというか」

「そっか。じゃあ、俺もお礼言っとかないとな。どうも、うちの楓がお世話になりました」


 至極真面目ぶった顔で、静揮はフカブカと頭を下げる。

 武道を嗜んでいるだけあって、静揮はこういうことにはうるさいのである。


「きゃあ。静揮さんが頭を下げられているわ」

「あの方がやると何でも絵になるのよねぇ」


 その様子を目撃した透子と一緒にいた生徒会役員が黄色い声を発する。

 静揮は学園内でも綜一狼と二分するほどの人気を誇っている。

 妹である楓を心底大切にしているというのも、ポイントが高いとか高くないとか。

 そんな静揮ファンには、こういった場面は堪らないものらしい。


「生徒会長も素敵だけど、静揮さんもかっこいいのよねー」

「うんうん。分かるー。二人一緒に居るところなんかもう・・・・・・」


 「きゃあ。きゃあ」と話の花を咲かせ始める。


「あなたたち後はもういいわよ。教室に戻りなさい」


 そんな役員の姿に、透子は苦笑をしつつ言葉をかける。


「あ、はい。それじゃあ・・・・・・」


「うちの? 楓は静揮の恋人?」


 出て行こうとしたとき、ルナの爆弾発言を聞き役員達の動きが止まる。

 静揮は手に持っていたおにぎりを落とし、楓は目を丸くする。


「ち、違うよ。静ちゃんは・・・・・・」


「ただの妹ですっ!」

「そうよ! 誰が恋人よっ。透子先輩ならともかく、どうしてあんな子が恋人なのよ!」


 楓の否定の言葉より早く、戻ってきた役員達が烈火の如く怒りながら、ルナにそう言い放つ。

 いつものおしとやかさはどこえやら。二人は猛然とルナに詰め寄る。


「あ、そうよね。同じ南条だし。でもあんまり似てなかったから」


 そんな二人の反発に合いながら、ルナはマイペースにそう言葉を吐く。


「確かに、この子は静揮さんと違ってパッとしない容姿ですけれど、二人は紛れも無く・・・・・・」


「あなたたち」


「あ、す、すみません。失礼しました!」


 コメカミを押さえ込んでいる透子と唖然としている静揮の姿に、役員達はやっと我に返り真っ赤な顔をして部屋を飛び出していった。


「ごめんなさい、楓さん。あの子たちも悪気はないんだけど」

「いえ。透子さんが謝らなくても。別に気にしてないですから」


 俯いたまま楓はブンブンと首を振る。


「そっか。恋人同士か。そう見えんのかな」


 どことなく嬉しそうな顔をして、静揮はウンウンと頷く。


「あ。私、綜ちゃん捜して来ます!」


 突然に、楓は言い捨てるようにして部屋を飛び出した。


「楓さん・・・・・・」

「楓どうしたのかな? 私、何か悪いこと言いました?」

「いや。俺にもよく」


 楓は明らかにおかしかった。

 だが、その理由が分からず静揮とルナは、互いに顔を見合わせ、首を傾げる。

 そんな静揮の姿に透子は小さく吐息を付く。


「あなたは」


 透子は静揮を見て言葉を零す。

 その瞳に、静揮は思わず蹴落とされそうになる。

 普段は、特に綜一狼の前では見せることの無い、憎しみすら感じさせる瞳だった。


「あなたは、いつまで偽り続けるつもりなの?」

「何のことだ?」


 透子の言葉の意味を理解しかねて、静揮は眉根を寄せる。


「見ていてイライラするわ。あなたもあの子も。それに・・・・・・いいえ。何でもないわ。忘れて」


 途中で透子は口を噤む。


「お前、もしかして知っているのか?」


 静揮はハッとして透子を見る。


 自分と楓に血の繋がりがないということを知っている。

 そうであってもおかしくないことだ。

 透子の家と綜一狼の家は昔から付き合いがあったし、そういった話が、戯れに話されていたとしても決しておかしなことではない。


「何のことかしら?」


 透子は言い放つ。


「いや、なんでもない」


 ここで真相を知ったところでどうなる話でもない。


(言えるものならとっくに言ってる)


 静揮は心の中で呟く。

 

 十年だ。十年という月日を、静揮と楓は兄妹として育ってきた。

 例え、静揮がずっと楓を妹として見ていなかったとしても、楓は静揮を兄として慕っている。

 これは絶対だ。

 それを壊すことがどんなに勇気がいることで、難しいことなのか、歳を重ねれば重ねるほどに身に染みる。

 静揮と楓の距離はもっとも近く、そしてもっとも遠いのだ。


「色々大変なのね」


 いまいち理由が飲み込めていないルナだが、その場の重苦しい雰囲気をヒシヒシと感じ取り、肩を竦めて呟いた。


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