オオカミ来襲(7)
生徒会室に入ると、一足早く来ていた透子が綜一狼の元へと駆け寄ってきた。
部屋の中はバタバタと慌しく、役員たちが走り回っている。
「状況は?」
「見ての通り。まだみんな混乱していて、システムの復帰には暫くかかりそう。とりあえず、セキュリティだけは回復したけど、あの画面に映っていた男に逃げられたわ」
透子は悔しそうにキュッと唇をかみ締める。
「ま、そうだろうな。回復したというよりは、あいつが、元に戻していったという方が正しいだろう」
透子の言葉に綜一狼は淡々と言葉を吐く。
「私も見たわ。あれは一体・・・・・・」
チラリと綜一狼の隣にいる楓に、視線を向ける。
「ともかく今は、システム復旧が先だ」
「ええ。そうだったわね」
綜一狼の言葉に、透子は作業へと戻った。
「楓、大丈夫だからな」
「うん・・・・・・。ごめんね、綜ちゃん」
楓は小さく息を吐き呟く。
何が『大丈夫』で何が『ごめんね』なのかよく分からないが、今日ここに来たことで、何かとんでもないことに巻き込まれてしまったのは間違いない。
(やっぱり思い出せない)
ずっと考えてはいるのだが、どうしても『ヒジリ』を思い出すことが出来ない。
聖のすべてを見透かしているかのようなあの青い瞳を思い出し、楓は唇をかみ締める。
思い出す度に胸が締め付けられる。
不思議な感覚。
恐いとも悲しいとも言い難い。
でも、確かに心が声を発している。
一番的確な表現。
それは『切なさ』かもしれないと楓は思う。
何ともおかしな感覚。
(きっとまた逢うことになる)
楓は心の中で呟く。
予感・・・・・・いや、それは妙にはっきりとした確信だった。
「楓」
名を呼ばれて我に返り隣りを見ると、険しい顔をした静揮の瞳とかち合う。
静揮の目は何かを問いた気に、楓の瞳を覗き込む。
「・・・・・・はぁ。なんか、わけわかんねーよな。この間から。おかしなことばかりだ」
一度何かを口にしかけて、けれどそれを飲み込み、静揮は力なく笑い言葉を投げる。
「うん。本当だよね」
「もどかしい・・・・・・」
「え?」
「お前のこと、全部分かったらいいのにな。そうしたら、お前にそんな顔させないのに」
一体自分はどんな顔をしていたのだろう?
『ヒジリ』を思い出したその時の顔は、そんなにひどい顔をしていただろうか?
複雑な思いが入り混じっていてよく分からない。
「悪ぃ。何言ってんだ俺は。いや、ほら、困ったことがあれば何でも言えよ。ってことだ。何でも相談に乗るからな」
考え込む楓の姿に静揮はそう言葉をかける。
「うん。ありがとう。頼りになるお兄ちゃんがいて心強いよ」
楓はにっこりと微笑む。
その言葉に、静揮がどこか複雑な表情を浮かべていることに、楓は気づかなかった。