オオカミ来襲(5)
それはちょうど、大型モニターに差ししかかった時だった。
西棟と東棟を結ぶ、だだっ広い踊り場には、学園でもっとも大きなモニターが頭上に吊るされている。全校生徒の三分の一が入れるスペースだけあって、そのモニターも半端な大きさではない。
突然に、その場の騒音がピタリと一斉に鳴り止んだ。
まるで、三人がその場に入るのを待っていたかのように。
不吉なくらいの静けさがその場に広がる。
「何だ? 直ったのか」
「いや。見ろ。モニターに何か映ってる」
静揮の問いに、綜一狼が踊り場の大型モニターを顎でしゃくる。
「あれは・・・・・・」
ぼやけた映像が、やがてその人物を明確に映し出す。
黒髪に青い瞳の男。
年は二十代前半といったところだろうか。
黒髪に青い瞳はひどく神秘的で、ハッとさせられるほどに綺麗な顔立ちをしている。
「何だよこいつ」
隣りで静揮が息を飲むのが分かった。
驚く楓たちとは対照的に、男は椅子にゆったりと座り込み、悠然と笑みを称えている。
まるでその場の光景を楽しんでいるかのようだった。
「チッ」
男の余裕な表情を見て、綜一狼が忌々しげ舌打ちする。
不快感が支配する。
自分の領域を土足で踏み荒らされた。
こんな屈辱的なことは、久しぶりだった。
「こいつ、どこから映像を送ってるんだ? 何のつもりなんだよ、一体」
静揮もひどく憤慨した様子で画面の男を強く睨む。
『簡単なことだ。コンピュータなど所詮は機械。一つにつけこめばすべてが覆せる。実に単純で楽な作業だ』
「なっ」
絶妙なタイミングだった。
男はまるで静揮の問いに答えるかのように、ゆったりとした口調で言葉を吐いた。
「モニタールームか」
そこで綜一狼は合点がいく。
学園内でも数名しか足を踏み入れることが出来ないはずのモニタールーム。
学園すべてのコンピュータを管理しているいわば、学園の中心部。
蟻の子一匹入り込めないよう厳重に警備されたそこに、男は入り込んだのだ。
「お前は誰だ?」
しかし、それならば話は早い。
綜一狼は臆することなく、男を真っ直ぐに見据える。
その姿を見て、男はさもおもしろそうに口元を緩ませた。
『運命の巡り合わせとは数奇なものだな。何が起こるのか分からない』
そう言い綜一狼を見、そして視線は楓へも向けられる。
あまりにも唐突なことに、楓はビクリと小さく体を震わせる。
綜一狼も男の視線に気が付き、楓を自分の後ろへと引き込みその姿を隠す。
静揮も一歩前へと足を進め敵意を露にして男を睨む。
「質問に答えろ」
『血気盛んなことだ。まあいい、とりあえず名ぐらい名乗るのが礼儀というものか。俺は、夜狼の聖だ』
「ヒジリ?」
その名に、楓の心の奥がコトリと音を立てた。