オオカミ来襲(3)
「乗っ取・・・・・・」
「られた?」
綜一狼から出たその言葉に、楓と静揮は間の抜けた顔をする。
「それってどういうこと?」
楓はうーんと頭を抱え込む。
いくら日本有数の名門校と言っても場所は学園。
乗っ取ってなんの意味があるというのだろう。
「てーことは、誰かが立て篭もってるとかそういうことなのか?」
同じように考え込んでいた静揮が、綜一狼に神妙な顔で尋ねる。
「いいや。そんな原始的なことじゃないさ。正確には、学園のシステムが乗っ取られたんだ。ともかく行ってくる」
そう言いながら、綜一狼は素早く上着を着込む。
「待って。私も一緒に行く」
楓は慌てて席を立つ。
「だめだ。何が起こってるか分からないんだ。危ないだろ」
「迷惑はかけないから。ね、いいでしょ?」
楓は拝み倒すように綜一狼に向かって手を合わせる。
「遊びに行くわけじゃないんだ」
「うん。分かってる。でも、綜ちゃんだけじゃ、心配じゃない」
綜一狼の言葉に楓はもっともらしくそう反論する。
(楓が付いてくるっていう事の方がよっぽど不安じゃないのか?)
と、綜一狼は思わず心の中で反論し額を押さえ込む。
「そんな大怪我してる綜ちゃんを一人でなんて、絶対行かせられないんだから」
いつになく頑なに楓はそう言い張る。
「でもな」
どうしたものかと綜一狼は困り果ててチラリと静揮の方を見る。
「綜一狼の負けだな」
その様子を見て静揮はおかしそうに笑う。
こういう場合の楓はひどく頑固だ。
根が真面目な分、相当性質が悪い。
さしもの綜一狼も今回はうまく丸め込めないだろう。
まだ思案している様子の綜一狼に、静揮は更に言葉を続ける。
「こういう時の楓は何言っても聞かないって。行こうぜ。急いでんだろ?」
そう言いつつ、静揮も席を立ちいつの間にか、すっかりと出かける準備を整えている。
楓が行くとなれば、自分が行かないわけにはいかないのだ。
「たくっ、分かったよ。ただし、俺から離れるなよ」
すでに付いていく気の二人に何を言っても無駄だということを悟り、綜一狼はとうとう折れる。
「うん」
ほんとうに分かっているのかどうか、にっこり笑って楓は大きく頷いた。