表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/91

それは突然に(9)

 楓が出て行くと、その場はガラリと雰囲気が変わった。

 綜一狼の表情はフッと冷たいとも形容出来る表情に変わる。

 それと同時に、透子も表情を引き締める。


「今度のことは、外部に漏れないように操作しておくわ」


 これが世間にバレたら、学園の大スキャンダルになる。

 なにせ、政治家の子供や綜一狼や静揮のような大会社の御曹司、透子ように旧家の令嬢など、ただでさえ注目を集めやすい生徒が揃っているのである。


「ああ。もちろんだ」


 綜一狼は小さくうなずく。


 その時、ズボンのポケットから微かな着信音が聞こえてきた。

 綜一狼は携帯電話を取り出す。


「ええ。私です。今は怪我の治療に・・・・・・。いえ、大したことはありません。・・・・・・分かっています。すべて任せてください。ともかく落ち着いて。指示は後でコチラから出します。・・・・・・。そうです。それまでは、一言もそのことに触れないように。・・・・・・それではよろしくお願いします」


 ほんの数分言葉を交わし、綜一狼は携帯電話を切った。


「少しは自分の頭を使えと言うんだ」


 携帯電話を切った後、綜一狼は苛々と言葉を吐く。


「誰からなの?」

「理事長だ。さっきの事件を聞いて、慌てふためいて電話してきた。透子。お前はあの男を呼び出してくれ。明日、俺が直接会う」


 立ち上がりながら透子に言葉をかける。


「守屋・・・・・・ね?」


 眉を顰めて、嫌悪感をあらわにし透子は言葉を吐く。


「ああ」

「あの男を使うこと、私は賛成できないわ」

「お前はあいつが嫌いだからな。だが、こういうことはあいつの専門特許じゃないか。使わない手はないだろ」


 透子の反発の言葉を、綜一狼は一蹴するかのようにきっぱりと言う。


「……分かったわ」

「もう戻っていいぞ。後のことは明日だ」

「ええ。・・・・・・綜一狼。くれぐれも油断しないでね」

「誰に向かって言ってるんだ?」

「そうね・・・・・・ごめんなさい。少し動揺しているらしいわ」


 綜一狼の答えに、透子は小さく笑って踵を返し部屋を出て行った。


「・・・・・・・・・・・・」

「お前は戻らないのか? 授業が始まってるだろ」


 綜一狼は無言で佇んでいる静揮に言葉を向ける。


「早山はお前を襲って、楓はそれに巻き来まれたってことらしいな」


 静揮は静かに言葉を吐く。

 いつもと違うその声のトーンに、綜一狼は無言のまま静揮を見る。


「誰からも慕われている人望が厚い生徒会長。成績優秀スポーツ万能。その上、容姿端麗ときている。そんな奴が、裏でどんなことをしているのやら」


 軽く肩を窄めて、言葉には侮蔑が見え隠れしている。


「何が言いたい?」


 あくまで普段と変わらず、しかし綜一狼の声は鋭く静揮を射抜く。


「お前が裏で何しようと、俺は口出しするつもりはない。言ってどうにかなる奴じゃないしな」

「その通りだ」


 綜一狼は小さく笑う。

 楓には見せたことが無い、どこか冷たい微笑だった。


 静揮は出口へと向かう。

 扉に手をかけたまま、もう一度綜一狼を振り返る。


「だけどな、楓を巻き込むな。もし、また今度のようなことがあったら、俺は絶対許さない。全力で楓をお前から引き離す」


 そう言って綜一狼を強く睨むと、静揮は保健室を後にした。


「もう二度と傷つけない。そんなこと俺が一番分かってるさ」


 一人残された綜一狼は、低くそう呟き、傷ついた肩を強く掴んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ