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それは突然に(8)

「はい、ストップ」

 

すっかり二人の世界状態の中、いつの間にか戻って来た保健医はヒクヒクと引きつった笑いをして、二人を睨んでいた。


「あ・・・・・・」

「きゃあっ」


 その姿を見たとたん、楓は慌てて立ち上がり、綜一狼から数メートル離れる。


「ここをどこだと思っているの? まったく、近頃の若い子は」


保健医は額を押さえ込み、ぶつぶつと呟く。


「ち、違います! そ、そんなんじゃないんです! 本当に違くて・・・・・・」


 部屋の隅っこで、真っ赤な顔をして訳の分からない言い訳を始める楓。


「何でこんなベストなタイミングで」


 綜一狼はといえば、落胆の色濃くぼそりと呟き、うな垂れる。


「仲がいいのはいいけれど、時と場所を考えてね」

「これからは気を付けます」


 少しばかり毒気を含んだ保険医の言葉に動じることもなく、爽やかな笑顔で綜一狼は答える。


(今のって何?)


 一方楓は、あまりの出来事にパニック状態になっていた。


「さて。あなたたち、取り敢えず病院に行くことになったわよ。大丈夫なんだけど、上の人たちは色々うるさいのよ。今、車を呼んでくるわ」


「さっきのようなことがないように」と釘をさし、保健医は部屋を出て行った。

後には楓と綜一狼が残る。


「あの人はワザワザ邪魔しに帰ってきたのか? ・・・・・・て、楓。いつまで、そんな隅っこにいるんだよ」


 未だ部屋の隅に佇んだままの楓に、綜一狼がため息を付くように言う。


「だ、だって」


 楓はジッと綜一狼を見る。


「だって何だよ?」


 まだ混乱している楓に比べ綜一狼は何事もなかったように、普段と変わらない様子だ。


「な、何でもない!」


(からかわれただけだ)


 そう思ったら何となく腹立たしくて、楓は言いかけた言葉を飲み込むと、スタスタと綜一狼の元へと歩み寄る。


 その時だった。保健室の扉が勢いよく開く。

 ややもすれば、そのままドアが吹き飛んでしまうのではないかというほどの勢いがあった。

 楓はびっくりして、ドアの方へと視線を向ける。


「楓!」

「綜一狼!」


 楓の目の前に、二人の男女の姿が飛び込む。


「静ちゃん。透子(とおこ)さんも」


 あまりにも唐突な登場に、楓は目を丸くして二人を見る。二人の表情は共に険しいもので、それぞれ端正な顔をひどく歪ませている。


「どうした? 血相変えて」


 そんな二人の様子を見て、綜一狼はシラッとした口調で言う。


「どうしたもこうしたも。傷は? ああ。しゃべれるということは、大したことないのね」


 綜一狼の姿を見て、透子と呼ばれた少女は幾分か安心したように息を吐く。


「ああ。見ての通りだ」


 ニィッと不適な笑みを浮かべて、綜一狼は包帯の巻かれた腕を軽く上げて見せる。


「あなたという人はまったく」


 呆れたように言葉を吐きながらも、透子は表情を緩ませ微笑を浮かべた。

 片桐(かたぎり)透子(とおこ)

それが彼女の名だ。ストレートの黒髪とクッキリ二重の瞳。加えて完璧なプロポーション。

ミス稔川に選ばれたほどの美貌の持ち主で、二年生の現副会長。

成績優秀、スポーツ万能、嘉神家とも縁が深い、旧家の令嬢である。

気さくな人柄で、男女を問わず慕われている。

綜一狼の『恋人』いや『婚約者』と黙されている。


「あなたも大丈夫ね」


 綜一狼から楓へと視線を移し、透子は優しく微笑む。


「はい。心配をかけてすいません」


 楓は勢いよく頭を下げる。楓にとっても透子は憧れの存在であり、密かな目標だったりする。


「いいのよ。無事だったんですもの」


 楓の言葉に透子はやんわりと言う。


「手、怪我したのか?」


 楓の手に巻かれた包帯を見つけて、静揮は険しい顔で声を上げる。


「うん。でも、どうってことないのよ。綜ちゃんが庇ってくれて」


 楓は慌てて言う。


「そうか。『庇って』ね」


 静揮は含みを持った言い方をして、鋭い視線を綜一狼に向ける。


「車が着たわよ」


 保健室に保健医がひょっこりと顔を出す。


「はい。すみませんが楓を先に連れて行ってくれますか」

「え? 綜ちゃんは?」

「すぐ行く。生徒会のことで、ちょっと透子に話があるんだ」


 綜一狼はにっこりと楓に笑って言う。


「分かった。じゃあ、先行くね」


 その言葉を聞き、楓は保健医と共に部屋を出た。


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