プロローグ
現代ファンタジーです。
主人公逆ハー気味?
ぬるめに残酷シーンも含みますのでご注意ください。
少女はフト目を覚ました。
いつもだったら、決して真夜中に起きるなどということはないはずのに。
月明かりさえもない闇と静寂。
見慣れたはずの小さな自分の部屋。
しかし不意に、少女は不安になる。
毎日、一人で眠っているはずなのに、何だか世界中から取り残されたような、そんな孤独感があった。
少女はベッドを抜け出す。
「パパ、ママ」
眠たい目を擦りながら、部屋のドアを開け、暗闇の奥に向かって少女はそっと両親に呼びかける。
さほど大きくない家。
夜の静けさの中で、少女の声は予想以上に響く。
だが返事はない。その事実に少女は途方に暮れる。
すっかり目が冴えてしまった今、ベッドに戻って寝なおすなどという考えはすでになかった。
かといって、暗闇の中を一人で両親の元に行く事は、六歳になったばかりの少女には、勇気がいることだった。
「パパ、ママー」
もう少し声を大きくして、もう一度呼びかけてみる。
が、やはり返事はない。
少女は決断した。
部屋を出てキッと前を見据える。
「幽霊さん。出ないでね」
震える声でそう呟いてから、両親の寝室へと向かう。
知り合いから安く買い取ったといういうその家は、ひどく痛んでいて、少女の軽い体重ですら、歩くたびにギシギシと不気味な音を立てる。
少女はその音に泣き出したくなるのを必死に堪え、服の裾を握り締める。
口元はぎゅっと引き締め、視線はなるべく前だけに向ける。
目がやっと闇夜に馴れた頃に一つのドアが目についた。
少女は途端に詰めていた息を吐き出す。
両親の寝室だった。
そこにパパもママもいる。
そう思ったと同時に、もう恐怖も消え去っていた。
安堵感から自然と笑みが零れる。
ここまでたどり着くのにどんなに怖かったのか、二人に話したらきっと笑われるだろう。
けれどそれでもいい。
早く会いたい。
寝る前に話しをしたはずなのに、いつも以上に恋しさが募って、少女は急いでドアに駆けより扉を開いた。
ギイィッ。
建てつけの悪い扉が低い音を立てる。
中を覗き込む。
だが、そこもやはり暗闇だった。
少女は部屋に足を踏み入れる。
しかし次の瞬間、その場がどこかいつもと違うということに気が付く。
「パパ、ママ?」
一歩足を踏み出し、ソレに躓きそうになって、少女は慌て後ず去る。
そして見た。
それが何であるのかを。
「……」
が、少女には分からなかった。
目の前にあるソレが何なのか。
自分が何を見ているのか。
そんなはずはない。
「パパ……ママ……?」
呼べば、ママは眠そうに
「どうしたの?」
と言い、パパは
「こっちにおいで」
とすぐに手招きをしてくれるはずなのだ。
こんなはずはない。
床の上にある二つのもの。
暗闇の中でも分かる、床に壁にベッタリと張り付いているドロドロとした液体。
開け放たれた窓から、所在無く吹き込む風が、カーテンを大きく揺らし、少女の間をすり抜けた。
ソレが何であるのか、暗闇に目が馴れている少女に分からないはずはなかった。
優しい月明が差し込む。
だが、少女は泣かなかった。
声を発することさえもせず、動くこともしなかった。
少女は暗闇の中、大きな目を見開きただその場に立ち尽くしていた。