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宿題をしない友達がいたという高校生活の記憶

作者: だりょ
掲載日:2026/03/20

 放課後のことだ。

 期末試験が近づいていることもあって、本来部活動で学校に残っている生徒も、今日は帰路についていた。

 そのせいで道いっぱいに、多くは黒だが色とりどりの服を着た生徒たちが広がって歩いていた。

 高校は小高い山の上にあるのだが、下の道路までの坂道を埋め尽くしている様は試験の接近を知らせているようで、ある意味これがカレンダー的な役割をしているのかもしれないと思った。

 その坂道を半分ほど下った頃である。

 やあ、と喧騒の中でぼそっと聞こえた気がしたので声の主を探すと、斜め後ろに他クラスの友達、城田がいた。

 人混みを必死にかき分け、城田は俺の横に並んだ。


「試験もうすぐやけど勉強してる?」


 城田は一時期トラッシュシスターズというゲームのやり込み過ぎで有名になっていたので、心配になったのだ。


「もちろん。単語の勉強はしてる」


 意外にも開口一番にゲームの話が無かったので、少し面食らった。

 しかし、すぐに思い出した。

 そういえばこいつは自らゲーム機を単身赴任中の父親に差し出して、島流しにしてもらっていたんだったか。

 そう、本当に島流し。

 確か流した先は九州だったっけ。


「ならええやん。なんやったっけ。ぽんかんやったっけ」

「キンカンやで」

「そうそれ、キンカンなぁ……。俺はあんま知らんのやけど、ちょっと見せてくれん?」


 キンカン、というのは英単語勉強に使う無料アプリである。

 周りにも何人かインストールしてた奴はいた。

 課金要素があってその方が自由度は上がるらしいが、こいつはドケチだからまさかそんなことはしないだろうな。


 城田が俺にスマホの画面を見せる。

 柑橘類のアイコンのアプリを開き、利用時間と書かれたボタンを押した。


「ほら、見て。三日に一回、一時間」

「全然やんけ」

「……全然やったわ」


 一週間分の勉強時間が棒になって表示される仕組みだったが、城田のスマホにあったのは棒が二本だけだった。

 後は下の方に下草のような何かが生えている。


「五分はやってたんやけどなぁ……」


 五分ぶんの下草だった。


「えっと、やったんはそれだけ?」

「ドーオーリョクの宿題はしたよ」

「ドーオーリョク、銅黄緑……あれか、塾やろ?試験前やのに大変やなぁ。でも、え?それだけ?」

「うん」


 こいつ、大丈夫か?

 とは心配するが、いつものことだ。

 かくいう城田はいつも一日前に勉強を始め、短期記憶で全てを乗り切ってきた。

 俺と同じタイプだ。

 俺との決定的な違いは平均以上か、平均以下か。

 城田は大抵平均以下だったように記憶している。

 この前国語で記号問題が上振れて喜んでいたな。


 なら、まだ勉強しないこの時期には何をしているのか。

 答えは簡単、スマホをいじりまくっているのだ。

 これも俺的には結構有名な話。

 城田は、ゲーム機を失って生まれた時間をスマホに充てた。


「えー、一応聞いとくけど、スクリーンタイムは?」

「一昨日は……八時間やな……」

「八時間かぁ……それは相当やなぁ……」


 俺はそれしか言えなかった。


「まあ、八時間くらいいつものことやしな。大丈夫やろ」

「うん。それやったら良かったんやけど……」


 城田はそう言って、スマホの起動時間のグラフを俺に見せた。


「えっ、十一時間?」

「昨日は十一時間やねん。僕もさすがにヤバいと思うんやけど、ついやっちゃうんよ」

「まあしゃあないか。でも何やんの?」

「ミーチューブとか?無限に見てる気がする」

「ずっと見てられるもんな……じゃなくて!ミーチューブは害しかないで。それならゲームやってた方がマシや」

「ほんまに?」


 ショート動画とか止められないの分かるなぁ、と思いながら、城田のためにも少し説教することにした。


「トラッシュシスターズやったらある程度飛び抜けて得意なんやから人に自慢できるやろ?時間浪費するだけのミーチューブは何もなれへんで」

「確かに。あ、でもゲーム機のライト版でもやってるから」

「え」

「ヘビー版は島流しにしたけど、ライト版が見つかったからそっちでやってるんよ」


 俺はとうとう頭を抱えるしかなくなった。

 こいつはもうここまで来ていたのか、と。

 後俺ができるのは、フォローくらいしかない。


「う、うん、大丈夫やって。十二時間くらい俺もよく行くから」

「そうなん?」

「昨日は俺も十二時間は行ったなぁ。夜の二時くらいまでスマホ見とったわ。だからさ、気にすんなって」


 城田は俺の言葉に少し思考を巡らせた。

 そしてこう言い放った。


「でもタブレットでアニメ見た時間は含んでへんから、合計したら十五時間くらい行くと思う」


 俺は雷で打たれたような衝撃を受けた。

 長い間スマホを見すぎていたことを何とも思わないどころか、むしろその記録に加算して増やすようなことまで言い出したのだ。

 これは認められない。

 俺はもはや、後には引けなかった。


「いいや、それは違う。時間ってのには連続性ってものがあってな。お前の理論やったら一日が二十四時間を超えることになってまう。どうせスマホ見ながらアニメ見とったんやろ?」

「まあ、そやけど……」

「お前が言うてんのは、クラス全員から奪ったこの五秒でカップラーメン作れるってことやで?」

「確かに」


 城田は俺の言葉がもっともだと言うように大きく頷いた。


「だから、お前は十一時間。そんで俺は十二時間。この事実は曲げられへんな」


 この議論に決着がついた。

 誇らしい思いで再び前を向くと、隣でその会話を黙って聞いていた尾形が肩をぶつけてきた。


「それただスマホ見てた時間で張り合いたいだけやん」


 不毛な議論だった。

※実名は伏せているが、実際にあった出来事。

※ただし多少の脚色と会話のアレンジはあり。


ふとこれを思い出した場所は、風呂です。

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