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少年呪術師  作者: 森新児
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第45話 山頂の死闘

「撃て!」


 号令とともにフランチェスコとカラミルとAの銃口が向けられた。

 ()()()()()


「フランチェスコ?」


 とっさに困惑で体が固まった。

 フランチェスコはなんのためらいも見せず引き金を引いた。

 青い光がぼくののどをつらぬいた。

 日に焼けた夏草みたいなすえた匂いが一瞬鼻をつく。

 でも、それだけだ。

 

(スピリットガンは不滅のティグレを破壊するだけで肉体には影響をあたえない。

 心臓を撃たれたらアウトだけど! あ)


 白髪頭を突風がたたいた。

 高々とジャンプしたカラミルが、振りおろす爪の一撃でぼくの顔を切り裂こうとしている!

 あわててかわすとこんどは黒い影が落ちてきた。

 コマのように回転しながらAが飛んでくる。

 A得意の旋風脚!


(やべえ)


 泥まみれになって地面にころがり、奇跡的に蹴りをかわせた……と思ったら耳もとでピシッと音がした。


(頬が)


 蹴りの風圧で頬が裂けた!

 まともに食らってたら頭がつぶれていたとふるえていると、


「さ三郎くん!」


(ユイ)


 ぼくは三方をフランチェスコとカラミルとAにかこまれていた。

 その人壁の向こうにユイがいる。

 三人はぼくに銃を向けた。

 三方向から完全に心臓をロックオンされた。


「エマホー!」


 呪文とともに青い光がほとばしる。

 三人はスピリットガンを撃った。

 ぼくがその場に脱ぎ捨てたスーツに向かって。


「こっちだ!」


 人の壁を抜けてユイの手をとり、近くの林に駆け込んだ。 

 三人は地面にうつ伏せに捨てたスーツに青い光を浴びせている。

 光の反射でフランチェスコとカラミルの青い瞳が黄色に染まった。


「み見せて」


 ぼくの顎に手を当てるとユイは舌を伸ばし、頬の傷をべろり、と舐めた。

 たちまち血は止まり、深く裂けていた傷もぬぐったようにスー……と消えた。

 ユイの舌は子猫のそれのようにちいさくてあたたかかった。


「み、みんなどうしたの?」


「ぼくの幻を見てる」


 催眠術だよと説明した。


「三人とも脱ぎ捨てたスーツをぼくと思ってる。術はもうすぐとける」


「そ、そうじゃなくてどうして三郎くんを襲うの?」


「Xのマインドコントロールだよ。三人ともXにこころを支配されてる。ちくしょう純粋精神体の精神攻撃を甘く見てた。まさかAまでコントロールされるなんて……」


「さ、三郎くんはコントロールされてないね?」


「ほんとだ、どうしてかな……花子だ」


 彼女が守ってくれたと気づいたときだ。


「どこにいる早川三郎」


 巨人と化したサンジが吠えた。

 声の風圧でクスノキの大木がススキのようにめきめきそよぐ。


「止めてくれ。わたしは自分を止められない」


 そう獅子吼するとサンジはその場にしゃがんだ。

 彼の目の前にカラミルがいる。

 カラミルはほほ笑み浮かべて右手をさし出した。


「止めてくれないおまえが悪い」


 サンジはそういうとカラミルの右手をそっとつまんだ。

 そして無造作に彼女の右手を引きちぎった。


「……!」


 悲鳴をあげようとしたユイの口をあわててふさいだ。

 肉がちぎれ骨が砕けるぶきみな音が木々にこだました。


「まだ出てこないか」


 サンジはこんどはAの左手をつまんだ。


「ん~!」


 手を振りほどこうともがくユイを必死でおさえた。

 サンジはAの手も無造作に引きちぎった。

 にぶい音が林にひびく。

 Aの左手が捨てられる音だ。

 そのとき急に手があたたかくなった。

 ユイの涙が手の甲を濡らしている。


「これでも出てこないか。それでは」


 サンジはフランチェスコに手を伸ばした。

 フランチェスコも笑ってる。

 サンジは彼の金色の髪をそっとつまんだ。

 それを見てユイの全身がはげしくふるえた。


(首をもぐ気だ) 


「この美しい少年の死は三郎、おまえに責任がある」


「さ、三郎くん!」


「ここにいて」


 ユイに告げて林を飛び出した。


「やめろ!」


 ぼくを見たカラミルとAが目を輝かせ銃を向けた。


「エマホー!」


 呪文を唱えるとカラミルの残っていた左手と両足がズルッとはずれた。

 山田高文の能力をコピーした妖術ブラック・ダリアだ。

 痛みを感じることなく相手の手足をはずす。

 カラミルの胴体が地面に横たわると、その向こうにいたAがぼくに銃を向けた。


「A!」


 Aは銃の引き金に指をかけた。

 その指を引く前に、Aはくたくたとその場に崩れ落ちた。

 「雇い主を傷つけてはいけない」というロボットのタブーに触れたため一時的に全機能が停止したのだ。

 おそらくさっき旋風脚が空振りだったのも、タブーによる制止機能が働いたからにちがいない。

 Aが横になり、開けた視界のまん中にフランチェスコが立っていた。

 彼もぼくに銃を向けている。

 まだ距離がある。

 これでは術がとどかない。

 フランチェスコは笑顔で引き金に指をかけた。


「エマホー!」


 呪文を唱えると手足がはずれた。

 ぼくの手足が。

 胴体だけになってその場に倒れた。

 あお向けのぼくの頭上を青い光がかすめる。

 フランチェスコはすぐさま地面のぼくに銃を向けた。


「待て。その者はわれらが殺す」


 ケーキに刺さったロウソクのように、サンジは林のクスノキを一本軽々と引っこ抜いた。


「早川三郎、おまえには苦労させられた。この星の軍隊や警察はなにもできなかったのに、まさか子どものおまえにここまで振りまわされるとは思わなかった。敬意を表しておまえに最大の苦痛をともなう死をあたえよう」


「そんな敬意いらないよ」


「苦しめ」


 サンジはハンマーのようにクスノキを振りかざした。


「エマホー!」


 ぼくが呪文を唱えるのと同時にサンジは振り向いた。

 夜空に向かってすばやくかざしたクスノキが、轟音ととに爆発する。


(スモールインパクト)


 今コピーしたのは宮下神父の能力だ。

 自在に隕石をあやつりターゲットにぶつける。


「うお!」


 隕石の衝撃でサンジがぶっ飛んだ。すると


「三郎?」


 Aが横たわった地面から首をもたげた。

 カラミルも首を起こした。

 二人ともきょろきょろまわりを見わたしている。


(マインドコントロールがとけた)


 Xの支配力が弱まった。


「花子!」


 自分の声が林にガランとこだまする。

 ぼくはサンジの体内にいる花子に呼びかけた。


「聞こえるだろ花子。助けてくれ!」


「きさま」


(いけねえ)


 サンジがヌーッと起きあがった。

 体のどこにも傷はない。

 その代わり顔に不動明王のようなすさまじい憤怒が浮かんでいる。

 重々しい地ひびき立ててサンジはこっちに近づいた。


「敬意は捨てた。おまえを食う」


「敬意を捨てるなんてジェントルマンらしくないよ」


「われわれの文化にジェントルマンという概念はない……」


 そのときとつぜん一本の青い光がサンジのみぞおちをつらぬいた!


「レディを敬う概念もなさそうね」


 そういってカラミルは笑った。

 マインドコントロールとともにぼくがかけた術も解けたカラミルが、残っていた左手でスピリットガンを撃ったのだ。

 ぼくはとっさに歓声をあげた。


「やった! え?」


 サンジがさっきと変わらぬ憤怒の顔をカラミルに向けた。


(だめだスピリットガンが効かない。一丁では威力が弱いんだ)


「カラミル逃げろ!」


 ぼくもAもまだ体が動かない。


「逃げるんだ!」


「逃がさん」


 サンジの一声でカラミルは彫像のように固まった。


(いけねえマインドコントロール)


 また彼女の精神に鎖をかけられた!


「少女よおまえは食わん。おまえは血の匂いが濃すぎる」


 サンジはこぶしを固め右手を振りかざした。


「花子なんとかしてくれ!」


「死ね」


 サンジは岩のように巨大なこぶしをうちおろした。

 カラミルの体が蚊のようにすりつぶされる幻が見えた。


「カラミル!」


 肉が裂けるにぶい音とバケツの水がひっくり返ったような音が闇にひびいた。


「あなた……」


 地面に倒れたカラミルは、血まみれの自分の顔をそっと撫でた。

 彼女のそばにフランチェスコが倒れている。

 カラミルを突き飛ばしたフランチェスコは彼女の代わりにサンジのこぶしを受けた。

 パンチの衝撃で、フランチェスコの体は腰のところから真っ二つに裂けた。


「三郎」


 そのとき脳内で花子の声が聞こえた。


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